元カノの恋愛小説が映画になったので、忘れたはずの初恋が大ヒット上映中です
そこに、底抜けに明るい声が割って入る。

「おまたせしましたぁ。ご注文のスープですっ」

「……」

沈黙が走る。

「……って、何? この空気……」

ウェイターが何とも失礼な態度である。

振り返ると、その声の主は未来だった。

「お前、パティシエなのに料理運んでんの!?」

俺の驚いた声に未来は腰を屈めて、俺の耳元で小声で返してきた。

「お兄ちゃんが、『理緒を連れてくからホール出ろ』って急に今朝連絡してきたじゃん。今だけ代わってもらってんの」

俺と未来のやり取りに、理緒の柔らかい声が割って入る。

「未来、久しぶり」

「うわぁ。理緒、久しぶり! 変わらないね」

女の子同士の明るい声が響く。

「そう、かな? 未来は変わったね」

「まぁね。もう十代じゃないし」

そこに、佐藤さんは流れなど気にしないように割って入った。

「へぇ、君が未来さんか」

「あ、こちら、うちの会社の社長の佐藤さん」

「うちの神崎がお世話になってます」

佐藤さんは、爽やかな笑顔を振りまく。

未来は再び俺に耳打ちしてくる。

「お兄ちゃん、ヤバいイケメン連れてきたね」

「あれは、止めとけ」

「え〜? なんだ、残念」

理緒が再び未来に声を掛ける。

「ねぇ、未来のスイーツを食べに来たんだけど……」

「あぁ……それなら、これ食べて」

未来はメニューを指さして説明する。

「この間のコンペで通った私の企画なの」

「コンペ……すごい世界だね」

「ね。私もこんな厳しい世界とは思ってなかった」

「でも、今の未来は楽しそう」

「うん。こういう勝負の世界、嫌いじゃないかも」

――へぇ……コンペ。妹は意外と真面目に仕事をしていたらしい。

そう思いつつ、俺は会話には口を出さないようにした。

「へぇ。未来さんはアグレッシブなんだね」

佐藤さんのその声に、理緒は固い笑顔を向けて、「余計なことは言うな」と言わんばかりに牽制した。

「じゃあ、それを四人分」

俺が注文すると、また未来は屈んで耳打ちしてくる。

「お兄ちゃん、どういう集まりか分かんないけど、頑張ってね!」

「は? 頑張る?」

「じゃ、スイーツ楽しんでね」

未来は、そう言って下がっていってしまった。
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