次の世界でも、私を探してくださいね。
31
竹香のお休みの日、一時の時間も無駄にはしたくない。天気がよいので洗濯をして、でもやっぱり気になるので麗園をひと歩き。芍薬は順調に育っているので、ひと安心。
お昼過ぎに出かけ、まずは中柿おじさんに様子を見て、それから離山の邸宅に行って、アミノさんと一緒に夕食の支度をするという計画である。
久しぶりにキャプテンと食事をするのはうれしいな。スキップをしたい気持ちを抑えて離山邸に着くと、庭に数人の人がはいり、土を掘り返していた。
「今か今かとお待ちですよ」
アミノさんが笑顔で迎えてくれた。
「お仕事じゃないんですか」
「ご主人様は仕事を早く済まされて、帰っておられますよ」
竹香が居間に行くと、大きなテーブルの上に紙を広げて、何やら考えている彼がいた。
「キャプテン、早退したんですか」
「仕事が早く終わったからね」
「わたしのために、早く帰ってきてくれたのですか」
「いいや」
彼はしれっとして2本の指であごを挟んで、天井を見ている。
「庭を造ろうと思っているんだ」
紙に書いてあるのは、その設計図である。
「チーチーはどんな花や木を植えたらいいと思う?」
竹香がどれどれと設計図に見入った。
「これって」
「わかった?十六雲冠山のうちの庭だよ」
「キャプテンは、やっぱり故郷が懐かしいんですか」
「いや。考えてみたら、ぼくは実のところ、うちの庭しか知らないんだな。それと、芍薬麗園と。だから、斬新なアイデアが浮かんでこない」
「斬新なものがいいのですか?」
「いや、違うな。毎日見るものだから、明るくて、そして落ち着けるのがいい。うちのは暗かっただろう」
キャプテンは花どろぼうの犯人を逮捕したことを話した。
たびたび庭園の花が枯れていったり、抜かれたり、舟には仕掛けまでもがされていていた。誰が何のためにしていることなのか。亡霊の仕業だという者もいたが、仙師だった彼には亡霊がいればその存在は感じることができるから、そうではないことはわかっていた。
ここ数日、見張らせておいたのだが、昨日の深夜、ふたりの犯人が、現行犯で捕らえられたのだ。彼らはもと麗園の仕事をしていた連中で、竹香に仕事を取られたことを、恨みに思っていたのだった。
彼らが皇子が現れないことをいいことに、ずいぶんと手抜きをしていたのでがわかったので、離山は竹香に仕事を与え、彼らには別の庭に異動させたのだ。新しく配置された場所は後宮のある妃の庭だったが、妃は妥協が許せない性格で、いちいちと細かい注文を出した。遅くまで、情け容赦なく働かされるので、庭師は芍薬麗園の仕事がどんなに恵まれていちのか思い知らされたのだ。それに、もともと麗園を造った者たちなので、その庭には特別の愛着心があった。
その恨みと怒りは竹香に向けられた。仕事を素人に仕事を取られてしまったのだからと、庭にいろいろな悪だくみをしたのだった。
逮捕された庭師は、頭を地につけて謝った。舟のことは悪いと思っている。まさか、溺れるとは想像していなかった。ただちょっと脅したかっただけなのだと。
「命にかかわることで、ちょっとということはないのだ。そのことだけは、忘れないでほしい」
離山がそう言って、禁錮刑1ヵ月を与えた。
「無罪というわけにはいかないし、むち打ちよりいいだろう」
「痛いのはいやよね」
「そう思う。いやだね」
と離山が顔をしかめた。
「キャプテン、そんな経験あるの?」
ううん、ないないと彼が首を振った。
禁錮刑が済んだら、彼らをこの自分の邸宅で雇うつもりだと言った。
竹香は「あーっ、そう」といったまま、しばらく考えていた。
離山が何事なのかと思っていると、竹香がぱっと顔を上げた。瞳がきらきらしていて、何かひらめいたような表情である。
「わたしには造園の作業はできません。でも、アイデアを出したり、それに庭のお世話ならできます。キャプテンの家のお庭がすっかり出来上がったら、庭師の方は芍薬麗園に戻り、ここのお仕事をわたしにまかせてもらえませんか」
「うーん」
離山はそう唸ったきり、何も言わない。
竹香が彼の顔を覗いた。
離山が黙って、後ろを向いた。
「だめですか」
と竹香が彼の正面に回ったら、笑っていた。
「それは、いい考えだね」
「いいんですか」
「庭がすぐにできあがるといいのに」
竹香はもってきた白い布のものを渡した。
「これ、靴下?」
「はい。わたしが作りました」
先日、彼の足のサイズがわかったので、竹香は手作りをしたのだった。底が厚くなっている。
「いいね、これ。こういうの、どこにもない。ありがとう」
「気にいったら、もっと作ります」
「何でもできるね、チーチーは」
竹香は思う。
わたしがキャプテンの家に住むようになったら、まず彼をもっと太らせなければ。今の彼は痩せすぎている。ナツメ餅だけではなくて、アミノさんと協力して、いろいろな料理を作ってあげたい。
そして、できることなら、その足を治してあげたい。
永剣がいたら、治せるのに。
ケンケンは、今頃、何をしているのかしら。
お昼過ぎに出かけ、まずは中柿おじさんに様子を見て、それから離山の邸宅に行って、アミノさんと一緒に夕食の支度をするという計画である。
久しぶりにキャプテンと食事をするのはうれしいな。スキップをしたい気持ちを抑えて離山邸に着くと、庭に数人の人がはいり、土を掘り返していた。
「今か今かとお待ちですよ」
アミノさんが笑顔で迎えてくれた。
「お仕事じゃないんですか」
「ご主人様は仕事を早く済まされて、帰っておられますよ」
竹香が居間に行くと、大きなテーブルの上に紙を広げて、何やら考えている彼がいた。
「キャプテン、早退したんですか」
「仕事が早く終わったからね」
「わたしのために、早く帰ってきてくれたのですか」
「いいや」
彼はしれっとして2本の指であごを挟んで、天井を見ている。
「庭を造ろうと思っているんだ」
紙に書いてあるのは、その設計図である。
「チーチーはどんな花や木を植えたらいいと思う?」
竹香がどれどれと設計図に見入った。
「これって」
「わかった?十六雲冠山のうちの庭だよ」
「キャプテンは、やっぱり故郷が懐かしいんですか」
「いや。考えてみたら、ぼくは実のところ、うちの庭しか知らないんだな。それと、芍薬麗園と。だから、斬新なアイデアが浮かんでこない」
「斬新なものがいいのですか?」
「いや、違うな。毎日見るものだから、明るくて、そして落ち着けるのがいい。うちのは暗かっただろう」
キャプテンは花どろぼうの犯人を逮捕したことを話した。
たびたび庭園の花が枯れていったり、抜かれたり、舟には仕掛けまでもがされていていた。誰が何のためにしていることなのか。亡霊の仕業だという者もいたが、仙師だった彼には亡霊がいればその存在は感じることができるから、そうではないことはわかっていた。
ここ数日、見張らせておいたのだが、昨日の深夜、ふたりの犯人が、現行犯で捕らえられたのだ。彼らはもと麗園の仕事をしていた連中で、竹香に仕事を取られたことを、恨みに思っていたのだった。
彼らが皇子が現れないことをいいことに、ずいぶんと手抜きをしていたのでがわかったので、離山は竹香に仕事を与え、彼らには別の庭に異動させたのだ。新しく配置された場所は後宮のある妃の庭だったが、妃は妥協が許せない性格で、いちいちと細かい注文を出した。遅くまで、情け容赦なく働かされるので、庭師は芍薬麗園の仕事がどんなに恵まれていちのか思い知らされたのだ。それに、もともと麗園を造った者たちなので、その庭には特別の愛着心があった。
その恨みと怒りは竹香に向けられた。仕事を素人に仕事を取られてしまったのだからと、庭にいろいろな悪だくみをしたのだった。
逮捕された庭師は、頭を地につけて謝った。舟のことは悪いと思っている。まさか、溺れるとは想像していなかった。ただちょっと脅したかっただけなのだと。
「命にかかわることで、ちょっとということはないのだ。そのことだけは、忘れないでほしい」
離山がそう言って、禁錮刑1ヵ月を与えた。
「無罪というわけにはいかないし、むち打ちよりいいだろう」
「痛いのはいやよね」
「そう思う。いやだね」
と離山が顔をしかめた。
「キャプテン、そんな経験あるの?」
ううん、ないないと彼が首を振った。
禁錮刑が済んだら、彼らをこの自分の邸宅で雇うつもりだと言った。
竹香は「あーっ、そう」といったまま、しばらく考えていた。
離山が何事なのかと思っていると、竹香がぱっと顔を上げた。瞳がきらきらしていて、何かひらめいたような表情である。
「わたしには造園の作業はできません。でも、アイデアを出したり、それに庭のお世話ならできます。キャプテンの家のお庭がすっかり出来上がったら、庭師の方は芍薬麗園に戻り、ここのお仕事をわたしにまかせてもらえませんか」
「うーん」
離山はそう唸ったきり、何も言わない。
竹香が彼の顔を覗いた。
離山が黙って、後ろを向いた。
「だめですか」
と竹香が彼の正面に回ったら、笑っていた。
「それは、いい考えだね」
「いいんですか」
「庭がすぐにできあがるといいのに」
竹香はもってきた白い布のものを渡した。
「これ、靴下?」
「はい。わたしが作りました」
先日、彼の足のサイズがわかったので、竹香は手作りをしたのだった。底が厚くなっている。
「いいね、これ。こういうの、どこにもない。ありがとう」
「気にいったら、もっと作ります」
「何でもできるね、チーチーは」
竹香は思う。
わたしがキャプテンの家に住むようになったら、まず彼をもっと太らせなければ。今の彼は痩せすぎている。ナツメ餅だけではなくて、アミノさんと協力して、いろいろな料理を作ってあげたい。
そして、できることなら、その足を治してあげたい。
永剣がいたら、治せるのに。
ケンケンは、今頃、何をしているのかしら。