次の世界でも、私を探してくださいね。

50

「おまえが人間界に行ったのを知ったのは、学校が始また日のことだった」
 永剣は竹香を連れて飛行しながら、竹香が去ってからのことを話した。

 竹香が学校をやめていなくなった時、教師は、地方のある家で行儀見習いをすることになったと生徒に告げたのだった。
 しかし、冬氷はそんなことは信じなかった。自分に何も告げないで、行くわけがない。
「そのくらい、チーチーのことを信じていたんだ、あいつは」

 冬氷は、それが本当かどうか、どの地方のどの家に行ったのか、あちこち聞いて回り、自分の父親にも訊いてみたが、
「立場をわきまえよ。時代の担う者が、そんな安っぽい行動をするな」
 と叱責されただけだった。

 しかし、彼はそんなことではくじけない。
 竹香の父親を訪ねてみると、竹香が出ていくことに関してはさまざまな約束があるから、行先は秘密で、教えることはできないと言われた。
「自分でその道を選んだのですから、チーチーのことは、忘れてやってください。そのほうが、チーチーの幸せのためでもあります。仙術を使えない子が、ここで幸せに暮らせると思いますか。この質問に、これ以上、答えることはありません」
 
 それでも、冬氷は竹香の居場所を探そうと、休みのたびに、永剣とともに地方の村を訪れていた。

 そんなある日、貴星がやってきて、冬永が竹香を誘ったのは賭けのためだと話したことを告白した。

「どうしてそんな嘘をついたんだ」
「みんなもそう言っていたから、そう思ったのよ。だって、キャプテンがチーチーを晩餐会に誘うなんて、ありえないじゃない」

 その時、貴星は冬氷が泣いたのを見た。彼が人前で泣くなんて、ありえないことだったので、貴星はどんなひどいことをしてしまったのかと恐くなって震えた。
 そばにいた永剣が冬氷の肘に手を当てたら、それを振り払った。

「私だって、晩餐会にはキャプテンと行きたかったのよ」
 と貴星も泣いた。
「キャプテンがチーチーを誘ったと聞いて悔しかったから、ちょっといじめてやろうとしただけで、まさか、人間界に行くなんて、想像もしなかった」
「そうか。チーチーは、人間界に行ったのか」

 その帰り道、冬氷は何も言わずずっと下を向いて考えこんでいたが、よく朝、父親のところに行って、自分は人間界に行きたいと申し出たのだった。

「何を言っているのか、わかっているのか」
 父親は顔を鬼にして、憤怒した。
「はい」
「それは智修宗家にあっては決して口にしてはならないことなのだぞ。撤回せよ」
「できません」

 父親は家来を呼んで、棒打ち30回の刑を与えた。
 それくらいでは堪えてはいなかったので、さらに100回の刑が与えられた。
 永剣はその噂を聞いて、夜中にこっそりと、冬氷を訪ねていった。冬氷は、血を滲ませながら、雪の地面に正座させられていた。

「痛いか」
「ケンケン、帰れ。見つかったら、おまえも罰を食らうぞ」
「そんなことは気にするな」
 永剣は見張りを気にしながら、彼に仙術治療を施した。

「人間界に行くなんて、不可能だ。諦めろ。時間はかかるが、おれが仙界を変えてみせるから、それまで待て。おれがなんとかするから」
「それじゃ、遅いんだ」

 冬氷はそれからも罰を受けたのだけれど、100の鞭打ちの後、雪の中に2週間、正座させられていた時が一番苦しかったと後に言ったことがある。

「その時、貴星がやってきて、珊瑚の髪飾りを握らせていったんだそうだ」
「お姉さんが」
「貴星は冬氷がおまえに会うために、人間界に行こうとしていたのを知っていたからな。あいつはそれをずっとそれを握りしめて、がんばったんだ」
 あまりに強く握りしめていたから、あの髪飾りは割れ、色もあんなに変わってしまったのだ。

 2週間して、父親がやってきて、青白くなって正座している息子に言った。
「どれほど、罪深いことを言ったのかわかったか。撤回して、謝罪せよ。そうすれば、今回だけは許してやろう」
「父上、どうか私を仙師界から、離籍してください。人間界に行かせてください」 
「まだ言うのか」
 息子がそれでも意志を変えなかったから激怒して、さらに300回の刑が与えられた。
 それでも意志が固かったので、冬氷は敷地内にある離れに幽閉されたのだった。
 
 幽閉されたばかりの時、冬氷の父親に正式に頼まれて、永剣が説得に行ったことがあった。彼はすっかり身体を痛めて横になっていたけれど、人間界に行くという意志が固かった。
「頼みがある」
「なんだ」
「官吏試験の本をもってきてくれ」
「わかった」
 その幽閉は、2年間も続いた。彼はその間、暗い部屋で、ただ本を読んで生きていた。
 
 幽閉が解かれても人間になると主張したので、父親は心を決めた。自分の息子だからと言って、温情を与えるわけにはいかない。見せしめのために、こらしめなければならない。

 父親は冬氷は足の腱を切らせて、谷底に放置した。
 人間界に行きたければ行くがよいということだが、歩けないのだから、つまり野ざらしにされたということ、極刑である。
 彼に残された道は、這ってでも冬氷湖に行って、仙師とし死を迎え、次の世界に生まれ変わるということである。

 しかし、冬氷は次の世界に行かず、どうにかして、この世界で生きようとあがいていた。その極秘情報を手にいれた永剣が彼を探し出し、洞穴に隠して、仙術で腱を元通りにしようとしたのだった。

「このおれが通って、料理して食わせたんだぜ。まずい飯をさ」
 永剣がばつが悪そうに笑った。
 竹香は、永剣は料理ができるとキャプテンが言ったことを思い出した。

 永剣は意図的に、青年グルーブの絶対リーダーとして君臨し、年寄り組からも一目置かれる存在になった。そういう強い存在になれば、細かい行動はとやかく言われないだろうと考えたのだった。作戦は成功し、誰もが彼を畏れた。
 永剣は洞窟に通って料理を作ったり、仙術治療をし続けたのだった。

 しばらくすると、彼はあの身体で主都に行き、官吏試験を受け始めた。
 あと6ヶ月もあれば杖なしで歩けるというところまでこぎつけたが、人間界での役人の最後の試験を逃したくなくて、冬氷は完治を断念して、山を下りることを決心したのだった。この機会を逃したら、次の試験があるのは3年後だったからである。

「わたしのために。そんなにまでして」
 竹香の涙が、雪解けのつららのように流れて、下に落ちていった。
「ほんと、馬鹿だよな。あいつは」
 竹香が永剣にしがみついて、大声で泣いた。あまりにわんわん泣いたので息ができなくなって、永剣が背中を叩いてやらなければならなかった。

「おまえ、飛行中に大泣きするのはやめてくれないか。おまえの面倒をみながら飛び続けたら、飛行の達人のおれでも、落ちるぞ」
「すみません」

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