仕立て屋の秘密の採寸~冷徹な投資銀行家が、試着室でネクタイを解くとき~
「た、高瀬様? 今日の営業は終わり──」
「千早。少し、お直しをお願いしたくてね」
彼は驚く私を見て、悪戯が成功した子どものように微笑んだ。その瞳には、テレビで見せていた冷徹さはない。あるのは、ただ真っすぐに私を求める甘い熱だけ。
「お直しですね。喜んで、高瀬様」
「美鈴。今の俺は客であって客ではない。名前で呼んでほしい」
初めて名前で呼ばれ、それだけで身体がしびれるように熱くなる。右手の人差し指で顎を掬われ、彼の有無を言わせない情熱的なまなざしに囚われた。
「……利匡さん」
「美鈴、それでいい。まだ夜は始まったばかりだ。時間がたっぷりある」
「はい。朝までじっくりと、測り直させていただきますね」
私は扉に鍵を閉め、彼の手を取った。
「望むところだ」
ふたりの大人の理性が、優しく溶け合っていく。
私たちだけの秘密の仕立てが、今夜もまた、静かに始まる──。
END


