独占欲の強い幼馴染はいつも私を噛みたがる。

第1話 噛みつく理由

「美咲……」
「ちょっ……翼やめ……」

 休日の昼下がり、広い公園の真ん中に置かれた噴水の前でよく知る男に腕を噛まれそうになる。
「少しだけ!」
「なに言って……痛っ……やめ……やめてって言ってるでしょ!」
 無理やり腕を掴んでガブリと噛み付く翼の強引すぎる行動に美咲は重めの一発を入れた。

「ってぇー!」
 
 振り払うと言うが早いか、自分が噛んだ腕で頭を叩かれ翼はうずくまり頭を抱える。
「やめてって言ってるのにやめないからでしょ。また腕噛んできて……あんたは赤ん坊か!」
「赤ん坊って言ったら噛んで良いのかよ」
「20歳の男が赤ん坊なわけないでしょ」

 この噛みつき男、佐藤翼は美咲の幼馴染。
 待ち合わせ場所の公園で騒がしく言い合う二人。
 付き合っているわけでもないのに、美咲に自分の痕を残そうとする翼の行動は異常と言ってもいいかもしれない。


 美咲は翼に噛まれた跡を擦る。

「もー、噛み跡残ってるし……会うたびに1回は噛むの、やめてよ」

 中学卒業くらいだった、翼の噛み癖が始まったのは。
 同級生の男子に呼び出され告白されているところを、通りかかった翼が目撃してしまった。
 以来、翼は美咲に自分を刻むように歯を立てる。
「……美咲が可愛いから悪い」
「っ……だ、だからって」

 ギターを背負い、クールな空気で取っ付きずらそうに見える翼。
 そんな男が不貞腐れるように口を尖らせる姿に、母性がくすぐられる。
 ギャップに弱い美咲は「うっ」と声を漏らし、何も言えなくなった。
 この言い訳は今回が初めてではない。
 なのに美咲はいつもこうやって翼に丸め込まれる。
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