独占欲の強い幼馴染はいつも私を噛みたがる。
第二話 バンドメンバー
「なんだよ、仕方ないだろ。噛みたくなるんだから」
「噛みたくなるから噛むって言い訳が通用してたら警察いらないでしょ!」
「……美咲も本気で突き放しはしないだろ」
「それは、昔強く突き放して翼が首を大怪我しちゃったから……」
翼の首にある古傷。
太い線のような傷は美咲が翼を突き放した際、石に当たって切れてしまったものだった。
血の気が全て引いた、翼の首が赤く染まって——
美咲はその光景を忘れられなかった。
自分が突き放したせいだと、今も罪悪感を持っている。
「……とにかく、噛まないように意識して!あんまり噛み続けるなら距離とるからね」
「それは……気を付ける」
翼はシュンと頭を下げた。
「んっ。」
この話はおしまい、と怒ることをやめて美咲は辺りを見回す。
後ろの噴水からは水が吹き出し、霧になった水飛沫がヒヤリと美咲の肌を優しく冷やす。
春先の公園は涼しく、花壇に植えられた色鮮やかな花が甘く華やかな香りを漂わせている。
「優斗と由紀、まだかな」
スマホを確認するが、メッセージはない。
約束の11時までもう1分もない。
「あいつら、デートか?」
「え!あの2人付き合ってたの?!」
「……ないな。ない。」
翼は一瞬考えたように黙るがすぐに否定した。
「大体、由紀に関しては男が好きかどうかも怪しいだろ」
「それはちょっと失礼じゃないかい?」
少し先の方から中性的な声が翼に向けられる。
ゆっくりと噴水へと向かってくるショートカットの女性。
女性と知っていなければ男性と間違えられてもおかしくないその顔は、王子様のようなのにどこか気だるげな雰囲気も漂う。
「由紀ー!」
「美咲、お待たせ」
2人は再会を喜ぶように抱き合う。
「本当、そこら辺の男よりかっこいいよね由紀」
「ふふ、ありがとう。男になりたいわけではないんだけどね」
「知ってる。私は由紀の由紀らしさが好きだからいいと思う」
美咲はにこやかに笑う。
由紀は美咲の笑顔を愛おしく見つめていた。
そんな2人の世界を面白くないと翼は思う。
美咲と2人の空間によそ者が入ってくるのは気に食わない。
バンドのメンバーじゃなかったらキレている。
……こっち見ろよ。
「由紀は相変わらず美咲と仲がいいね」
知らぬ間に翼の後ろにいた清潔感と脱力感を併せ持つ青年、翼の隣に移動してニコニコと微笑んでいる。
「いたなら声かけろよ、優斗」
「今かけただろ?」
「ハッ」
優斗の言葉に鼻を鳴らす翼。
腕につけていたスマートウォッチを見て優斗は3人に言った。
「ちょうど11時、そろそろスタジオに向かおうか」
4人は公園を離れ、ビルに囲まれた街中を歩いて進んだ。
————————————
某所レンタルスタジオ。
4人で向き合い、音の調整をする。
美咲は作曲担当で実際にライブで曲を弾くことはないが、スタジオ練習の時はキーボードを用意して3人の演奏に混ざったりしている。
翼はギター&ボーカル
優斗はベース
由紀はドラム
3人は全く違う空気を持っているのに、音は不思議と惹かれ合う。
やっぱりこの3人の音、すごく好き。
「今日はなにするんだっけ?」
「あ?由紀なにも聞いてねぇのか?」
「トークで話したと思うけど……あ、ほら」
優斗は履歴を遡って由紀に見せる。
「あー……次のライブのセット決め、忘れてたなぁ」
トントントンッとドラムの弾みでスティックを跳ねさせる。
翼は由紀のやる気のなさに目を細め、ピリピリとした空気が部屋に広がる。
優斗は何も言わないが、この空気をどうするか考えていた。
……。
この3人はいつもこうなってしまう。
バンドを組んでいるのが不思議なくらいだった。
美咲は3人の意識をそらすように提案する。
「とりあえず、慣らしで一曲弾かない?私、聴きたい」
美咲の存在が3人の空気を変える。
「……いいか?」
「もちろん」
「そうしよう」
ピリついていた空気は魅力的な音へと変わっていき、美咲は気持ち良さそうに3人の響きと歌声に浸った。
その後は会話も円滑に進み、ライブのセットリストも問題なく決まった。
「そろそろ休憩しよう」と優斗が音を止め、ベースを降ろす。
美咲は伝えることがあったと思い出し、優斗を止める。
「休憩の前にこれ!新しい曲作ったんだけど、見て欲しくて」
美咲は書き留めた楽譜を渡そうと足を伸ばすがコードに引っかかりバランスを崩した。
「わっ!?」
「っ!!」
つまずいて倒れる前に優斗が美咲を抱きしめる。
あ……あぶなかったぁぁ……。
「優斗……ありがとう」
「……気をつけてね」
優斗は美咲を立たせ、名残惜しそうに抱きしめた手を緩めた。
優斗の美咲を見つめる瞳に翼は友達以上のものを感じ、嫌な予感が頭を過ぎる。
彼は2人を見つめたまま、ギリっと奥歯を鳴らした。
「あ、これ。」
美咲は思い出したように3人に楽譜を渡す。
作詞はこの中の誰かが担当。
美咲は曲だけ作る、それがいつもの流れ。
キーボードに戻り、楽譜の曲を弾く。
「弾くとこんな感じ。いつもと違ってバラードっぽい曲にしてみたの、……どう?」
3人は黙って美咲のキーボードを聴く。
曲を弾き終えると3人とも「良い」と褒めてくれた。
「よかった!休憩……私ちょっとコンビニ行ってきていい?」
「俺もいくよ」
「優斗も?じゃあ一緒に行こう」
美咲は優斗とスタジオを出ようと扉に進む。
「……」
……なんなんだよ。
その途中。
翼が美咲の手を掴み、抱きしめるように引き寄せた。
え。
美咲の頭へ見せつけるように口付ける翼。
突然の行動に美咲は驚きを隠せない。
「な、なに!?」
「頭に虫、ついてた」
「え!やだ取って!」
口付けをされたことに美咲は気付いていなかった。
「…………。」
その行動が翼の目の前にいる優斗に対する牽制ということも彼女は知らない。
「噛みたくなるから噛むって言い訳が通用してたら警察いらないでしょ!」
「……美咲も本気で突き放しはしないだろ」
「それは、昔強く突き放して翼が首を大怪我しちゃったから……」
翼の首にある古傷。
太い線のような傷は美咲が翼を突き放した際、石に当たって切れてしまったものだった。
血の気が全て引いた、翼の首が赤く染まって——
美咲はその光景を忘れられなかった。
自分が突き放したせいだと、今も罪悪感を持っている。
「……とにかく、噛まないように意識して!あんまり噛み続けるなら距離とるからね」
「それは……気を付ける」
翼はシュンと頭を下げた。
「んっ。」
この話はおしまい、と怒ることをやめて美咲は辺りを見回す。
後ろの噴水からは水が吹き出し、霧になった水飛沫がヒヤリと美咲の肌を優しく冷やす。
春先の公園は涼しく、花壇に植えられた色鮮やかな花が甘く華やかな香りを漂わせている。
「優斗と由紀、まだかな」
スマホを確認するが、メッセージはない。
約束の11時までもう1分もない。
「あいつら、デートか?」
「え!あの2人付き合ってたの?!」
「……ないな。ない。」
翼は一瞬考えたように黙るがすぐに否定した。
「大体、由紀に関しては男が好きかどうかも怪しいだろ」
「それはちょっと失礼じゃないかい?」
少し先の方から中性的な声が翼に向けられる。
ゆっくりと噴水へと向かってくるショートカットの女性。
女性と知っていなければ男性と間違えられてもおかしくないその顔は、王子様のようなのにどこか気だるげな雰囲気も漂う。
「由紀ー!」
「美咲、お待たせ」
2人は再会を喜ぶように抱き合う。
「本当、そこら辺の男よりかっこいいよね由紀」
「ふふ、ありがとう。男になりたいわけではないんだけどね」
「知ってる。私は由紀の由紀らしさが好きだからいいと思う」
美咲はにこやかに笑う。
由紀は美咲の笑顔を愛おしく見つめていた。
そんな2人の世界を面白くないと翼は思う。
美咲と2人の空間によそ者が入ってくるのは気に食わない。
バンドのメンバーじゃなかったらキレている。
……こっち見ろよ。
「由紀は相変わらず美咲と仲がいいね」
知らぬ間に翼の後ろにいた清潔感と脱力感を併せ持つ青年、翼の隣に移動してニコニコと微笑んでいる。
「いたなら声かけろよ、優斗」
「今かけただろ?」
「ハッ」
優斗の言葉に鼻を鳴らす翼。
腕につけていたスマートウォッチを見て優斗は3人に言った。
「ちょうど11時、そろそろスタジオに向かおうか」
4人は公園を離れ、ビルに囲まれた街中を歩いて進んだ。
————————————
某所レンタルスタジオ。
4人で向き合い、音の調整をする。
美咲は作曲担当で実際にライブで曲を弾くことはないが、スタジオ練習の時はキーボードを用意して3人の演奏に混ざったりしている。
翼はギター&ボーカル
優斗はベース
由紀はドラム
3人は全く違う空気を持っているのに、音は不思議と惹かれ合う。
やっぱりこの3人の音、すごく好き。
「今日はなにするんだっけ?」
「あ?由紀なにも聞いてねぇのか?」
「トークで話したと思うけど……あ、ほら」
優斗は履歴を遡って由紀に見せる。
「あー……次のライブのセット決め、忘れてたなぁ」
トントントンッとドラムの弾みでスティックを跳ねさせる。
翼は由紀のやる気のなさに目を細め、ピリピリとした空気が部屋に広がる。
優斗は何も言わないが、この空気をどうするか考えていた。
……。
この3人はいつもこうなってしまう。
バンドを組んでいるのが不思議なくらいだった。
美咲は3人の意識をそらすように提案する。
「とりあえず、慣らしで一曲弾かない?私、聴きたい」
美咲の存在が3人の空気を変える。
「……いいか?」
「もちろん」
「そうしよう」
ピリついていた空気は魅力的な音へと変わっていき、美咲は気持ち良さそうに3人の響きと歌声に浸った。
その後は会話も円滑に進み、ライブのセットリストも問題なく決まった。
「そろそろ休憩しよう」と優斗が音を止め、ベースを降ろす。
美咲は伝えることがあったと思い出し、優斗を止める。
「休憩の前にこれ!新しい曲作ったんだけど、見て欲しくて」
美咲は書き留めた楽譜を渡そうと足を伸ばすがコードに引っかかりバランスを崩した。
「わっ!?」
「っ!!」
つまずいて倒れる前に優斗が美咲を抱きしめる。
あ……あぶなかったぁぁ……。
「優斗……ありがとう」
「……気をつけてね」
優斗は美咲を立たせ、名残惜しそうに抱きしめた手を緩めた。
優斗の美咲を見つめる瞳に翼は友達以上のものを感じ、嫌な予感が頭を過ぎる。
彼は2人を見つめたまま、ギリっと奥歯を鳴らした。
「あ、これ。」
美咲は思い出したように3人に楽譜を渡す。
作詞はこの中の誰かが担当。
美咲は曲だけ作る、それがいつもの流れ。
キーボードに戻り、楽譜の曲を弾く。
「弾くとこんな感じ。いつもと違ってバラードっぽい曲にしてみたの、……どう?」
3人は黙って美咲のキーボードを聴く。
曲を弾き終えると3人とも「良い」と褒めてくれた。
「よかった!休憩……私ちょっとコンビニ行ってきていい?」
「俺もいくよ」
「優斗も?じゃあ一緒に行こう」
美咲は優斗とスタジオを出ようと扉に進む。
「……」
……なんなんだよ。
その途中。
翼が美咲の手を掴み、抱きしめるように引き寄せた。
え。
美咲の頭へ見せつけるように口付ける翼。
突然の行動に美咲は驚きを隠せない。
「な、なに!?」
「頭に虫、ついてた」
「え!やだ取って!」
口付けをされたことに美咲は気付いていなかった。
「…………。」
その行動が翼の目の前にいる優斗に対する牽制ということも彼女は知らない。