【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
「今回の出張だって、悠里ちゃんが家で待っていてくれるから頑張れた。先方にすごいややこしい人がいたんだけど、それでもこれをちゃんとまとめられたら悠里ちゃんに会える、その一心で頑張ってこれたんだよ?」
「あのね、理人くん。そのことなんだけどね、私……この家を出ようと思う」
「──え?」
「実はね、家の審査が通ったの。しかも妥協したところじゃなくて、第一希望のところ」
「な、んで……」
「だから私、明日にでもこの家を出ます」
悠里はそれだけ伝えて、ソファから立ち上がって自分の部屋へ戻っていく。
心の中はもうぐちゃぐちゃになっていた。
それでも一つだけ確かなことは、理人の過去の執着や義務感で選ばれたくないということだった。理人がきちんと自分の未来を見据えた上で、それでも自分のことが必要なのだと、そう対等に選ばれたい。
そのためには、悠里自身も自立する必要があった。
裕一のマンションを出たあと、理人の家に転がり込むように居候したまま、同棲という名前だけが変わった関係を続けてきた。それが何より悠里の中にずっと引っかかっていた。
自分の部屋に入って、ボストンバッグとキャリーケースを取り出す。
〝ねぇねぇ、悠里ちゃん。悠里ちゃんが使ってたこの部屋、もっとちゃんと悠里ちゃんの部屋にしない?〟
〝ほら、悠里ちゃんの背に合ったデスク置いたり、カーテンなんかも好きな色のものに変えてさ!〟
「……うぅっ」
思い出が詰まったこの家を離れるという決断に、後悔はないはずだった。
けれど、理人との様々な思い出たちがそれを引き止めるかのように呼び起こされていく。
理人はその場に座り込んでいた。
いつも顔を真っ赤にして恥ずかしさを隠すために両手を覆っていたその手は、今は涙を隠すためのものになっていた。
そして、翌日理人は正式に紗彩との縁談の話を聞くのだった──。