【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
「私ね?その話を聞いたとき、本当に嬉しかったんだよ。自分のためにここまで一途に思い続けてくれて、努力してくれる人がいてくれたことに」
「そんなの、俺が勝手にしたことだから……っ」
「でもね、だったらこれからは、この先の理人くんの十年、二十年先を考えるべきだと思うの」
理人が息を呑む。それまで俯いていた顔をゆっくりと上げながら、笑顔を浮かべている悠里を見て切なそうに眉を垂らした。
なんでそんなことを話しているのか、理人はまだ理解できていなかった。
けれど、悠里のその強い眼差しを目にした時、彼女の中ではすでに何か答えが出ていることだけはわかった。
「近くで見てきた私が一番よく知ってるよ。仕事をしてるときの理人くんが、どれだけキラキラしているか。これから先、もっと上の立場になれば、今よりもやりたいことができるようになる」
「そんなこと……っ。ねぇ、悠里ちゃん。俺言わなかった?仕事なんて二の次だって。俺は悠里ちゃんがいてくれればそれだけで……」
「聞いて、理人くん。多分ね、今、理人くんは人生の中で一番大事な岐路に立ってると思う」
明日、突きつけられるであろう未来の選択肢。
理人は悠里のためにそれをすべて蹴散らす覚悟を持っているだろう。それは悠里もわかっている。
けれど、彼の才能を、これまでの努力で積み上げてきたキャリアを、自分の存在という手枷足枷で縛り付けたくはなかった。
「だからね?一度、私を抜きにして本当に大切な理人くんの人生を考えてみてほしい。十年後、二十年後に「やっぱりあのときこうしておけばよかった」って後悔しない選択をしてほしいの」
悠里は真紀子が言った言葉を思い浮かべた。
〝王子様が選んだのが、結城さんや他の誰でもない奥畑ちゃんなんだもん〟
そして悠里は心の中で願った。
「(願わくば理人くんの十年後、二十年後の未来でも──……私を選んで)」
理人の顔から、一瞬にして血の気が引いていく。
「どうして、そんな話をするの?会社で何かあった?……あ、もしかしてまた舜になにかされた?」
「理人くんのことを愛しているから、だよ」
「だったら……っ!悠里ちゃんを抜きにして自分の人生を考えて、なんて……っ、そんなこと言わないでよ」
「……っ」
「俺ね?悠里ちゃんがいるから頑張れてる。勝手に原動力にしないでって言われればそれまでだけど、全部、君にふさわしい男になりたくて、それだけのために今までやってきた」
「うん」
「そんな悠里ちゃんを抜きにしてって……。じゃあ俺はこれから何を原動力にすればいい?俺はもう、悠里ちゃんなしでは生きていけない」
「自分のため、だよ。自分のために頑張ってほしい。私じゃなくて、理人くん本人の」
理人の目に涙が浮かび上がっている。
悠里のそばを離れたくない、その一心で悠里を再び強く抱きしめた。