【1章だけ大賞長編用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
突然、桁違いに騒がしくなったフロアに何事かと目をやると、そこにいたのは理人だった。
誰かを探しているかのように、キョロキョロと辺りを見回している。
社内の王子様の登場に、『今度飯でも行こうぜ?』と理人に声をかける男性社員や、遠目からうっとり見つめる女性社員達に、理人は多少困惑した様子を見せながらも難なくコミュニケーションを図る姿を見て、悠里の目には高校時代の〝冴えない元彼〟とはまるで別人のように映っていた。
「あ、奥畑ちゃん見て!あれが王子!うちの会社の王子様だよ!名前は丹波理人くんね!覚えて帰ってね!」
「真紀子、王子のことになるとテンションおかしくなってるよ」
「でもこんな時間にうちの部署になんの用だろうね」
真紀子達が王子の登場に首を傾げている隣で、悠里は内心ドキドキしていた。
自分の思い違いでなければ、きっと理人が総務部へ来た理由はただ一つ──……。
「(まさか、ね……)」
「あ、悠里ちゃん!……じゃなかった、奥畑さん!」
「……!!」
その〝まさか〟は見事に命中した。
理人は悠里の姿を見つけると、屈託のない笑みを浮かべながら手を振って見せた。
周りにいる人達が一斉に頭の上に「!?」を浮かべていることなど知らずこちらへ来ようと駆け足になる理人に、悠里は今日一番の驚きと焦りを覚えた。
「王子……もしかして奥畑ちゃんのこと、呼んでる?」
「呼んでるどころか、こっち来てない?」
「うん、キラッキラの笑顔をふり撒きながらこっちに向かって走って来てるね」
「ち、違うんです!あの、丹波くんとは、その……同じ高校の同級生なんです!」
「えー!そうだったの!?」
「はい!たまたま会議室で再会して、それで、お茶でもしながら話そうってなりまして……!」