【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
あの日裕一の口から出てきた言葉を、悠里は一生忘れない。
一切詫びることなく、さらには喜べと言い放った裕一のことを──……悠里は決して許さない。
「悠里、聞いているの?」
当時の悪夢に飲み込まれそうになった悠里は、目の前の裕一の声にハッと引き戻された。
目の前にはあの時と何一つ変わっていない、自分の意見がいつだって正しいと疑わない彼が立っている。
「もう……、関わってこないで」
目の前の男を睨みながら、震える声を振り絞った。
「冷たいなぁ、そんなこと言わないでよ悠里」
裕一はニッコリと笑顔を浮かべながら、一歩、また一歩と自分から遠ざかっていく悠里の手を握る。
かつては裕一のその笑顔のためにどんな苦労も乗り越えてきた悠里だったけれど、今ではもう恐怖でしかない。
「僕が結婚するからって、そう遠慮しなくていいんだよ?」
「……え?」
「結婚はあくまで僕が昇給するための政略的な結婚にすぎないんだ。言うなればこれはビジネスの一貫なんだよ」
「何を、言って……っ」
「僕が本当に好きなのは悠里だよ。だからもう意地張ってないで家に帰っておいで」
「やめて」
「これからずっと、僕が君の面倒を見てあげるから」
すらすらと紡がれていくグロテスクな言葉たち。
その単語こそ言わなかったものの、この男はつまり悠里に自分の愛人になれと告げているのだ。