【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
ぽろぽろと溢れる涙を拭おうともせず、悠里は声を震わせた。
理人は驚いたように目を見張ったあと、そっと両手で彼女の頬を包み込み込んで、親指で愛おしそうにその涙を拭った。
こんなにも悠里が感情を曝け出してくれたのは初めてのことで、理人はそれが不謹慎ながらも嬉しいと感じていた。
「でもね?理人くんはいつも私の一番の味方でいてくれて、私を優先してくれて、どんな私も褒めてくれたでしょ……っ?そのおかげでね、私……自分に自信が持てるようになったの。私はもっと大切にされる存在なんだって、そう思わせてくれたの」
「うん」
「いつか理人くんに恩返ししたいなって、最初はそんなふうに思ってた。でも、裕一さんから理人くんだっていつか私から離れて行ってしまうと言われたあのとき、失いたくないって一番に思った……っ。離れていかないでほしいって、もっと一緒にいたいって」
涙のせいで呼吸を乱しながら、それでも悠里は言葉を続ける。
理人は真っ直ぐに彼女を見つめて、ただ静かに、噛み締めるように頷いていた。
「私、理人くんが思っているような人じゃないかもしれないよ?高校時代のときみたいに、ただ楽しそうに笑っているだけの私じゃないよ?」
「どんな悠里ちゃんも、全部大好きだよ」
「……!」
理人はふっと優しく微笑むと、悠里の額にコツンと自分の額を合わせた。
至近距離で絡み合う視線に、悠里の心臓が大きく跳ねる。
「俺が愛してやまないのは、今の悠里ちゃんだよ」
「そ、そっか……」
「強がるところも、本当は泣き虫なところも、努力家なところも好き。どんな悠里ちゃんも全部見せて?俺はまだまだ頼りないかもしれないけど、悠里ちゃんのためなら本物の王子にだってなってみせるから──」
十年間、遠回りをして、傷ついて、ようやく見つけた本当の居場所。
理人はしゃくり上げるように涙を流し続ける悠里の背中を、今度は壊れ物を扱うように、優しく、丁寧に撫で続けた。
「(今度は絶対、離さない──)」
その隣で、理人は覚悟を決めたのだった。