【1章だけ大賞長編用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
悠里が転職活動を行えるようになったのは、裕一から別れを告げられたあの日から半年以上経ってのことだった。
いつまでも裕一を避けてビジネスホテルに連泊するわけにもいかず、一度関西にある実家へ帰るべきかと思案していたとき、裕一から『今の家を使ってくれ。僕は出張で戻れないし、悠里が嫌と言うならあの家には戻らないようにするから自由に使ってくれ』と最後の情けをかけられて、その日から今日に至るまで、悠里は彼と同棲していた二LDKのマンションに一人で住んでいる。
最初は家中の目に留まるものすべてに思い出が詰まっていて、過呼吸になるほど泣きじゃくり、そしてまた意気消沈し、何日も引きこもるという生活を繰り返していた。
裕一のことを思いながら毎日料理をしていたキッチン、忙しい仕事から帰ってきたときに少しでもリラックスしてもらえるようにと家中の掃除は欠かさず、お風呂場や寝室はより一層気を遣っていた。
それだけじゃない。裕一のスーツの管理から車のガソリンやオイル交換まで、身の回りのことをすべて担っていた悠里にとって、わざわざ自分の誕生日に他の女を連れてきて別れるための説明をされたという裏切りはどうしても耐え難いものだった。
けれど、いつまでも泣き腫らして一日を終えるだけではいけない。今は裕一が契約してくれているこのマンションに住んでいるからいいものの、いずれは自分で家を借り、一人で生活をしていかなけらばならない。
悠里の沈み切った気持ちを動かせたのは、これから先、一生一人で生きていくのだという覚悟だった。
恋愛なんて、もう二度としない。
誰かを好きになったり、愛してしまったりするから裏切られたときに傷を負ってしまうのだ。いくら婚約をして将来一緒にいることを約束していた仲でも、こうして人はあっさりと裏切り、離れていってしまうのだから。
「(これ以上、他人のせいで自分の心を傷つけられたくない──……)」
〝だからもう、二度と他人を愛したりはしない〟
涙が枯れるまで泣き続けたあと、悠里はそう強く決意したのだった。