【1章だけ大賞長編用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
──丹波理人。
その名前を聞いて悠里が思い出したのは、今では遠い過去となったほんのわずかな記憶。
悠里の二十九年という人生を振り返ったとき、一番フレッシュでキラキラしていたのが高校時代だった。
あのころの悠里は友達にも恵まれ、バスケ部に所属して仲間とともに目標へ向かってひたむきに汗を流し、学校の外では読者モデルをしていた時期もあって、彼女の中でもっとも輝いていた、青春そのもののような眩しい思い出となっている。
そんなときにできた、はじめての彼氏。
それがまさしく社内の王子様と呼ばれる彼と、同姓同名を名乗る人だった。
「(いや、でも同一人物なわけないよね)」
悠里の知る丹波理人と、真紀子達から聞く同姓同名の社内の王子様とはまるで人となりが違っている。
脳裏によぎった彼の姿を振り払って、悠里は鱈子クリーミーパスタと一緒に注文したレモネードをグイッと吸い上げて飲み干した。
「あ、まずい。そろそろ会社に戻んないとだ」
「本当だね、話し込みすぎちゃった」
「すみませーん!会計をお願いします」
気づけば店に掛けられている時計はもうすぐ十三時がこようとしていた。
真紀子達は大慌てで会計を済ませたあと、そそくさと店内を後にする。
「ご馳走していただいてありがとうございました。すごく楽しい時間でした」
「いいのいいの!私達も盛り上がっちゃったし!楽しすぎて時間ギリギリになっちゃって、お腹パンパンの状態で小走りさせちゃってるくらいだしね!」
「またみんなでランチしようね」
OL五人が小走りに道路を渡って、飛び込むように会社へ入っていく様子が面白くて、悠里はここで長く働けたらいいなと強く思った。