【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
理人は包み込まれていた悠里の手を、今度は自分からギュッと握り返した。
そしてこれから語られるのは、悠里が知らない理人の後悔だった。
「悠里ちゃんに会うまでは、直接話したい、連絡先をまた交換したい、あわよくばこのまま付き合っていたいって、そんなことばっかり考えてた」
「だったら……!」
「でも実際に悠里ちゃんの姿を見たら……すごく綺麗になってた。高校生のときとは比べ物にならないくらい、すごくキラキラしていて、俺には眩しすぎた」
理人は自嘲するように、ふっと力なく鼻で笑った。
「当時の俺は悠里ちゃんの隣に立つだけの資格はないって思い知らされた」
「そんなこと、ないのに」
「だからね、君に声をかけられないまま引き返した。……ね、情けない男でしょ?あの選択を、今でもずっと後悔してる」
理人は後悔に歪む顔を隠すように、悠里の肩にトンッと額を押し当てた。
どうか、こんな過去の話を聞いても嫌われませんように、引かれませんようにと願いながら。
十年間、誰にも言えず一人で抱え込んでいた理人の、不器用で、だけど一途で大きすぎる愛に、悠里の胸はたまらなく熱くなった。
「理人くんは情けなくなんてない」
自分の肩に押し当てられた理人の頭にそっと手を伸ばして、その柔らかい髪を愛おしそうに撫でた。
「お互いにいろいろ遠回りしちゃったけど、今こうしてまた二人で一緒にいられるのは、理人くんのこれまでの努力のおかげだよ?」
理人は悠里と別れてから、とにかく自分を変えようと躍起になっていた。
三つサークルを掛け持ちして、なるべく人と関わるよう務めた。恥ずかしがり屋な性格も直そうと、友人の少し変わったアドバイスを真に受けて英語のスピーチコンテストにも出場した。
三つ年上の兄から『ジムに通って鍛えれば性格も変わる』という適当な嘘も素直に受け入れて、理人は今でも週一で通い続けている。
すべては悠里の隣に立っても恥ずかしくない男でいたかったからだ。
そうしていつしか出来上がった、表面上の王子様。
理人はこのあだ名が好きじゃなかった。なんだかみんなを騙しているようで罪悪感すら抱いているほどだった。
「当時は不器用で、声をかけられなかった少年が、王子様に変身して帰って来てくれたんだもん。おとぎ話の中の王子様みたいだね」
「……!?」
「そんなの、情けないどころか世界で一番格好いいよ。ここまで一途に愛されて、私は世界一の幸せ者だなって思ってるから」
悠里はそう言って理人の頬を両手で優しく包み込みと、ゆっくりと自分の方へ顔を上げさせた。
不安に揺れる彼の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「私のためなんかに、十年間も一途に頑張ってくれて、本当にありがとう」
「悠里、ちゃん……っ」
「大好きだよ、理人くん」
悠里のその言葉に、理人はこれまでの後悔から救われた。
改めてこの女性を好きになれて良かったと、心から思った瞬間だった。
目には大粒の涙が浮かび上がって、容赦なく頬を伝って流れていく。
「うわっ、ごめん!泣くつもりなんて……、なかったんだけど」
「ふふっ!王子様だって泣くときくらいあるよ」
悠里はそっと自分の指で理人の涙を拭っていく。
そんな悠里に我慢できなくなった理人は、壊れ物を扱うように優しく悠里のことを抱き寄せた。
「ありがとう、悠里ちゃん。これからもずっとそばにいさせてね」
そう言って、二人はそっと口付けを交わすのだった──。