十秒怪談

顔ぶれ

Uという男性から聞いた話だ。

彼は、あるコンビニエンスストアで店長を務めている。三十五歳で脱サラし、大手チェーンのフランチャイズオーナーとなったのだ。

店舗運営は苦労が絶えないという。利益は薄く、年中無休。理不尽な理由で客に頭を下げる回数は、会社員時代よりもはるかに増えた。

だが、同業者が等しく抱える悩みのうち、ひとつだけ彼には無縁のものがあった。
従業員の離職問題である。

二十四時間の運営をアルバイトやパートに頼る業種だ。せっかく仕事を覚えてもすぐに辞めてしまい、人材確保に苦心する。
同業種の店長たちのそうした嘆きを聞くたび、Uは曖昧な愛想笑いを返すしかないのだという。

彼の店では、人が辞めないからだ。

特別に待遇が良いわけでも、時給が高いわけでもない。彼やともに店に立つ妻に、ことさら人を惹きつけるようなカリスマ性があるわけでもない。立地柄、客足が途絶えることもなく、仕事は決して楽ではない。

それでも、誰も辞めない。

店を立ち上げた当時に採用した十二名のうち、欠けたのは病気で通えなくなった一名のみ。

従業員たちにその理由を尋ねても、「他にやりたいこともない」「居心地がいい」などと、皆が一様に薄く笑みを湛え、当たり障りのない答えを返すだけだった。

オープニングスタッフとして採用した当時、高校生だったアルバイトの男の子は、今年で三十八歳になった。すでにUが店を始めた年齢を超えている。

Uは彼らスタッフへの感謝を口にしつつも、どこか、ひどく怯えている様子だった。

彼の店は現在も、二十年前とまったく同じ顔ぶれで営業を続けている。
< 12 / 12 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:7

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop