十秒怪談
祖父の家
酒の席で、知人から聞いた話だ。
彼女の祖父は、地方に古い日本家屋を所有していた。
部屋数が多く、縁側の先には広い庭がある。それだけ聞けば立派な屋敷なのだが、一階の廊下の突き当たりに、ひとつだけ「開かずの間」と呼ばれる部屋が存在していた。
彼女は子どものころ、何度かその家に泊まりに行く機会があった。
もともと臆病で大人の言いつけには従順だったため、その部屋には決して近づこうとしなかったという。
しかし、小学校低学年だったある夜のこと。
トイレに起きた彼女は、その部屋の奥から声がするのを聞いた。
自分の母親の声だった。彼女の名前を呼んでいる。
彼女はふらふらと引き寄せられた。
経年で黒く変色した木戸には、錠の代わりにかんぬきが掛かっているだけだった。
小さな子どもの腕力では固く、すんなりとは外れない。
ギギギ……と、重く木がこすれる音が響いた。
そのときである。
「何してるのッ!」
背後から鋭い声が飛んだ。
びくりとして振り返ると、そこには母親が立っていた。
血相を変えた、『本物の』母親が。
母親は弾かれたようにかんぬきを戻し、驚いて泣き出した彼女をきつく抱き寄せた。
それ以降、彼女は以前にも増して、その部屋を避けるようになったという。
やがて祖父が亡くなり、空き家になったその家は、彼女の叔母が相続することになった。
この叔母という人は、きわめて現実的な考え方の持ち主だった。維持費ばかりかかる古い家の有効活用を考え、民泊施設として一般に貸し出すことに決めたのだ。
古い日本家屋という物珍しさもあってか、とくに外国人客には好評で、利用者はそれなりにいるらしかった。
「民泊をはじめて五年ほどになりますが、」
グラスを見つめながら、彼女は伏目がちに語った。
「あの家に泊まったあと、旅行中の事故や病気で亡くなったお客さんが、二十人以上いるんです」
この宿だが、現在もウェブから予約することができる。
彼女の祖父は、地方に古い日本家屋を所有していた。
部屋数が多く、縁側の先には広い庭がある。それだけ聞けば立派な屋敷なのだが、一階の廊下の突き当たりに、ひとつだけ「開かずの間」と呼ばれる部屋が存在していた。
彼女は子どものころ、何度かその家に泊まりに行く機会があった。
もともと臆病で大人の言いつけには従順だったため、その部屋には決して近づこうとしなかったという。
しかし、小学校低学年だったある夜のこと。
トイレに起きた彼女は、その部屋の奥から声がするのを聞いた。
自分の母親の声だった。彼女の名前を呼んでいる。
彼女はふらふらと引き寄せられた。
経年で黒く変色した木戸には、錠の代わりにかんぬきが掛かっているだけだった。
小さな子どもの腕力では固く、すんなりとは外れない。
ギギギ……と、重く木がこすれる音が響いた。
そのときである。
「何してるのッ!」
背後から鋭い声が飛んだ。
びくりとして振り返ると、そこには母親が立っていた。
血相を変えた、『本物の』母親が。
母親は弾かれたようにかんぬきを戻し、驚いて泣き出した彼女をきつく抱き寄せた。
それ以降、彼女は以前にも増して、その部屋を避けるようになったという。
やがて祖父が亡くなり、空き家になったその家は、彼女の叔母が相続することになった。
この叔母という人は、きわめて現実的な考え方の持ち主だった。維持費ばかりかかる古い家の有効活用を考え、民泊施設として一般に貸し出すことに決めたのだ。
古い日本家屋という物珍しさもあってか、とくに外国人客には好評で、利用者はそれなりにいるらしかった。
「民泊をはじめて五年ほどになりますが、」
グラスを見つめながら、彼女は伏目がちに語った。
「あの家に泊まったあと、旅行中の事故や病気で亡くなったお客さんが、二十人以上いるんです」
この宿だが、現在もウェブから予約することができる。