十秒怪談

ふわり、ふわり

建設現場で働く須藤さんから、こんな話を聞いた。

あるとき、彼の現場にひとりの青年が入ってきた。
愛想がよく、よく笑うさわやかな青年だった。
須藤さんも彼をすっかり気に入り、仕事帰りにたびたび飲みへ連れて行ったそうだ。

しかし、事故は起きた。
とあるマンションの建設中のこと。
突風にあおられ、青年が足場を踏み外したのだ。

それは須藤さんのすぐそばでの出来事だった。
「あっ」と思ったときには、すでに青年の身体は大きく傾いており、次の瞬間には視界からふっと姿が消えた。
須藤さんは、さあっと全身の血の気が引くのを感じたという。

だが、運がいいとはこういうことを言うのだろう。
落下したすぐ下には、搬入されたばかりの大量の断熱材が積まれていた。
それがクッションの役割を果たしたのだ。

全治三ヶ月の大怪我を負ったものの、青年は奇跡的に命をとりとめた。
病院からの連絡を受けた須藤さんは、心底ほっとしたそうだ。

だが、話はそこで終わらない。

完成したそのマンションに入居した住人たちが、あるものを目撃しているというのだ。

——窓の外を、人が落ちていく。

といっても、石のようにまっすぐ落下するのではない。
空のビニール袋みたいに、ふわり、ふわりと、ゆっくり時間をかけて落ちていくのだそうだ。

目撃される姿は、どう聞いても事故の日の青年そのものだった。

須藤さんは、どうにも腑に落ちないと首をひねる。
それはそうだろう。

青年は、半年ほどのリハビリを経て無事に復職している。

今も須藤さんと同じ現場で、さわやかな笑顔で働いているのだから。
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