く ち な し―身代わりの恋
山に建つラブホテルは、戸別になっていた。
塀入口から坂道を上がると、さっき見かけた黒い車が、一番奥の部屋にバック駐車している際中だった。

死角になる建物の間から車を止めて降り、そっと男女が出てくるのを待った。
傘も持たないから、びしょ濡れだ。
ほんの数十秒なのに、その時間がとても長く感じた。

バン! と勢いよくドアを閉めて、男が髪を気にしながら降りてきた。

「……あ」

あのブルーのシャツ。
一昨日、私がクリーニングに取りに行ったばかりの物だ。
眼鏡をかけているけれど、間違いなく夫の祐介。
心臓が鷲掴みされた様に痛くなる。

「もぉ、酷い雨ー」

少し遅れて助手席から降りてきたのは、20代と思われる細身の女。
二人は車のナンバーも隠さずに中に入って行った。
車は、わナンバーでレンタカーだと分かった。

……体が、打ち付ける雨に切られそう。

声を出さなかったものの、私は泣きながら車に戻ってヘッドライトも点けずに走らせた。
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