く ち な し―身代わりの恋
「美味しかった、久しぶりの手料理だった」

大橋は手を合わせてご馳走様をする。

「奥さん、ご飯、作らないの?」

「作らないっていうか、そもそも作れない」

大橋は即答し、その話を遮断するかのようにカラオケの選曲を始めた。

奥さんの事なんて、聞いてほしくなかった?
まぁ、そうよね。関係ないもんね。私には……。

「 ″ FLOWER ″歌おっかな」

「え、それ、私が歌おうと思ったのに!」

「女だろ? 女性シンガーの歌えよ」

「ダメ、FLOWERはオハコなの」

「別に二人で歌えばいいんじゃないの?」

言いながらも、大橋は、ラルクの他の曲を選んで歌い始めた。


~♪♪~

あ。
この曲もかなり好き。嬉しい。
しかも、大橋は歌が上手い。
多分、もっと低い曲の方が楽に歌えそうだけど、私が好きだから頑張ってくれているんだろう。

そこにも、夫からはない愛情を感じてしまう。

でも。
大橋は、きっと、私が既婚者だから付き合ってるんだよね。
その方が家庭のある男としては都合がいいはず。
私が夫と別れたら、こうやって会う事もないのかもしれない。

そしたら。
一体、誰が私を女として見てくれる?


――″恋愛するには歳を取りすぎてる ″


ほんとうね。

どんなに後悔しても、時は戻らない。

リセットしたくても、恋愛を自由に、人生を自由に選択できる年齢にはなれない。



大好きな曲を聴き、思わず涙ぐんだ。



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