く ち な し―身代わりの恋
気が付けば、夕方の5時。
甘い余韻は束の間だ。

「旦那さん、何時に帰ってくるの?」

「予定では8時。真っ直ぐに帰ってくれば、ね」

離婚話を避けたくて、帰ってこないかもしれないけど。

「そっか。でも余裕があった方がいいもんな」

二人、慌ただしく帰る支度をし、ホテルのドアを開けた瞬間だった。

カシャ! とシャッターを切る音が聞こえた。

「……何だ?」

大橋が咄嗟に私を庇い、自身の後ろに回り込ませる。
車の陰から、スマホを此方に向けた男が出てきた。

一瞬、何処かの記者かと頭を過ったけれど。

その男は、

「…――奥様、申し訳ありません」


なんと、夫の秘書の山脇さんだった。
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