く ち な し―身代わりの恋


「あーっ! ダメだ! 俺って語彙力ねぇ!」

理が自室で苛ついてる。
どうやら編集者に推し進められた官能小説で詰まっているらしい。
リビングにまで苦悩の声が聞こえてきた。
そんな時になんだけど。

「理」

部屋を覗く。

「勝手に入ってくんなよ!」

「八つ当たりしないでよ。それより、……貸してくれない?」

「何を?」

「理の大学の卒業アルバム」

「は? どして?」

「ちょっと。見てみたくなって」

未練がましいけれど、大学時代のあの人を見たくなった。

「……ふぅん、別にいいけど?」

理は何か感じたのか、文句を言わずにアルバムを引っ張り出して見せてくれた。

「これが学校一のイケメンだった大橋忠延だよ」

その証拠にいきなり大橋の個人写真を指差した。


「本当にイケメンね」

イケメンという言葉が軽く感じるほど美形。
ただ、今の方が精悍な感じがして好きだ。

あと、もう一人見てみたい人がいた。

【雄飛 アユミ】

大橋の奥さんだ。

「誰を探してるの?」

カンの良い理は、私が特定の人物を見たがっている事に気が付いた。

もう終わった事だ。
理にならバレてもいいと、その名前を口にした。

「姉さん、アユの事まで知ってたの?」

理はびっくりした顔をしながらも、「俺と同じ学部だったよ」と、奥さんの写真を見せてくれた。

そして、驚いた。
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