く ち な し―身代わりの恋
そして。
私は実家に戻った。
しばらくの間は、政務活動費不正の件で地元新聞社と警察が来たり、慌ただしい毎日を過ごしていた。
それが少し落ち着いた頃。
「祐介くんは詐欺罪は免れないようだな」
縁側でボンヤリしていた私に父が話しかけてきた。
手入れの行き届いた庭に、チチチと小鳥のさえずりが響く。
「はい。名士の顔に泥を塗ってしまってご免なさい」
謝ると、父は豪快に笑った。
「名士って何だ? そんな肩書きはない。ただの庭木職人だよ」
笑みを携えたま、
「梓」
と、改めて私の名前を呼んだ。
「何?」
「お前の名前の由来は知ってるか?」
「小さい頃に聞いた気がするけど」
木へんだから植物系なのだろうと思ってはいた。
「『梓』 は、丈夫でしなやかで、弓を作るのに適した上質な材木だった」
やっぱり。
父らしい命名だけど。
どうせなら。″桜 ″とか、もっと可愛らしいが良かったのに。
父は誇らしげに続けた。
「その質に重ねて。健康で多くの人に愛され、親しまれる女の子になるように、と母さんと願いを込めて付けた」
″愛され、親しまれるように″
私、完全に名前負けしちゃってる。
「……夫にも愛されなかったのにね」
冗談じゃないのに、父はまた笑う。
「梓が 恐れないで、″良い子″の顔を捨てたら、きっと愛されるさ」
″それからが幸福な人生の始まりなんだよ″
と、まるで大橋みたいな事を言った。