く ち な し―身代わりの恋
* * *

夢かと思った。
ずっと忘れられない人が現れて。

「急にゴメン」

大橋は、私と背後に隠れる楓を愛しそうに見つめて、

「プレミアムなライヴチケットが三枚あるんだけど、一緒に行かない?」

好きなバンドのコンサートチケットを差し出した。

「……急過ぎる。何もかも……」

昔から、いつも突然現れるんだから。

「行かないとは言わせないよ、もし、断ったら……、」

大橋は私の耳元でそっと囁いた。

「……昔、バンギャルだった事、娘にばらすよ?」

「何それ? 脅迫??」

「そう」

頷いた大橋の目が僅かに濡れていた。


「その代わり、俺と恋愛してほしい」

″ 今度は、 永遠に ″

「お母さん、レンアイってなに? それ、楽しいの?」

小さな家に笑い声が響く。
自分では泣いてるのか笑っているのか分からない様な声だった。

窓の外を見ると、夕陽を浴びたクチナシの花がオレンジ色に染まり、風に小さく、笑うように揺れていた。

【 お幸せに 】【今度こそ】


そう言ってるみたいだった。











END
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