く ち な し―身代わりの恋
* * *

「あー、さっきは中断してスミマセン、大事な電話を思い出して」

地方に住む俺と、ほぼ電話でやり取りをする担当編集者に謝る。

《いいえ。いいんです。俺との打ち合わせより大事な電話は山ほどあるでしょうから》

「まぁ、そんな事ありますけど」

ムッとした声を出して編集者は続きを始める。

《さっき、朝田先生がおっしゃってた″不倫の純愛″ なんですがね。ブームは過ぎてるし、何より矛盾してると思います。人の ″ 倫 ″(みち)からそれてるんです。実際に不倫で純愛はあり得ない》

この人は知らないんだ。

「ありますよ。不倫でも」

片思いから始まる一途な恋。
想い合ってるからこそ結ばれない恋。
愛し過ぎて身代わりを探す恋。

「純な愛なんて、そこらに転がってる」

その証拠に、長年の想いをようやく遂げた男がいる。
アユの七回忌を終えたノブに、俺は姉が出産した事を伝えた。

ノブは、ずっと、アユに姉の面影を重ねて生きてきたから。
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