く ち な し―身代わりの恋
俺が書こうとしている小説にはモデルがいる。
大学時代の友達だ。
勿論、名前は変えるし、ストーリーも盛るつもり。
不倫なんかよりもずっと劇的なものに。そう言うと、

「モデルがいるの? 誰?」

姉が興味津々で尋ねてきた。
その時、姉のスマホが鳴った。
着信画面を確認した姉の顔に嫌悪が走る。

「あ、港口さま、こんにちは。お疲れ様です。え? 今、ですか? 家業の手伝いで実家におります」

姉が俺に背中を向け、ソファーから立ち上がり電話応対している。
その丁寧でよそよそしい口調から、後援会からじゃないかと推測。俺はテレビを消音にした。

「そうなんですね、それは大変でしたね。では、夕方、そちらにお伺いしますね」

電話を切った姉は、軽く溜息をついて俺を見た。

「後援会の婦人部からだった。で、何の話してたっけ?」

「あ、あぁ、俺の大学時代の友達の話を書こうと思ってるって」

「私の知ってる子?」

「見た事はある。多分姉さんが居る時に遊びに来たよ」

「へぇ、名前は?」

「言ったって分かんないと思うけど、お…――」

俺が友人の名前を言おうとした途端、再びスマホが鳴り、姉は観念したようにバッグを手に取って玄関へ向かっていた。
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