く ち な し―身代わりの恋
「無理ではないと思う。別に身体が目的じゃないから」

大橋は、一見、無表情としか取れない端整な顔に、微かに温厚さを滲ませて、私の差す傘に入ってきた。

「じゃあ、何が目的なの?」

年下の男、夫とはまるでタイプの違う。
未知過ぎて、考えてる事がわからない。


「恋愛がしたい」

「……は、い?」


大橋は、感傷的にではなく、かと言って冷たくもなく言葉を続けた。

2年前の選挙活動の際に私を見た事や、

「駅前でチラシを貴女から受け取った。とても綺麗な人だと思った」

自分にも家庭がある事、

「お互いに束縛しない、踏み込みすぎない付き合いをしたい。だから深い仲にはならない」

独身時代を思い出すような恋愛をしたいのだと告げてきた。

「この車も直ぐに修理するし代車も出す。悪くはない条件だと思う」

どこか終末的な匂いのする廃棄場で、見知らぬ男と相合い傘をする異様さ。
まともな思考ができていなかったのかもしれない。


「本当にそれで黙ってて貰えるなら……」

不貞の無い不倫を、私は承諾していた。
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