く ち な し―身代わりの恋
誘ってきたのはあっちなのに。

春は桜の名所で人が多いここも、梅雨の時期となれば、車でも登ってくる人は少ない。
こんな辺鄙(へんぴ)な場所を待ち合わせ場所にしたのは、お互い、既婚者だから。

私は、スマホを見て、大橋から何か来てないか数分毎に確認した。
繰り返すうちに、約束自体、していなかったんじゃないかと思えてきた。

……ううん。

数日前。
あのキスの三日後に、大橋から、

″昼飯でもどう?″と電話で確かに誘いを受けたもの。
断っても良かったのに、車をタダで修理して貰った手前、それも出来ずに約束した。

ー―それなのに。

時計を見ると、午後1時。
イライラが頂点に達し、もう帰ろうとシートベルトを装着しようとした時だった。
見覚えのある黒い車が、スッと横付けしてきた。

「遅れてゴメン。急用が入って」
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