く ち な し―身代わりの恋



つかの間の疑似恋愛の後は、また ″議員の妻 ″としての毎日が始まる。

「梓、明日は老人会との交流会に行ってくれるんだよな?」

梅雨らしい湿った朝。
夫の祐介が、以前から私に頼んでいた仕事を確認してきた。

「ええ、そのつもりですけど」

何を今更。と思い、そしてハッとする。

「明日は、貴方はどちらでしたっけ?」

この人、その間にまた浮気するんだ。

「ああ、シンポジウムで、今夜から泊まりで宮崎だよ」

「……泊まり」

またモヤモヤする。

「明々後日の商店街の会合はどうするの?」
「それまでには戻るよ」

だけど。
あのホテルの一件よりは、ずっと心が穏やかだった。

脅かされたからとはいえ、自分も浮気をしてるから。

怖いと感じていた大橋が、最近は普通の人に思えている。
会報の折り込み作業をしながら、スマホを何度か確認している私がいた。
すると、

ブブ!
マナーモードにしていたスマホが、テーブルの上で着信を知らせた。
呼吸を整え、数秒置いてから取る。

《火曜日、会えない?》

大橋からの誘いの電話だった。
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