く ち な し―身代わりの恋
「あんたの所は裕福だから、家庭に車が何台もあって買い物も遠くまで何時でも出来るだろう」

服部さんは部屋を見回して私を睨んだ。

「しかしな、うちの母親は車も持たなかったし、かといって公共の交通機関は不便で、天気が悪いと何日も腹を空かせて家の中にじっとしていた」

服部さんの眉間が険しくなっていく。

「板垣先生の創った駅前モールのせいで、歩いていける近所の商店街が消えたからだよ」

一人住まいの服部さんのお母さんは、去年、家の中で、ひっそり亡くなっていたのだという。

「いいか? 商店街が無くなるって事はその町から住人が追放されるのと同じだよ。前はあんなに近所に人がいたのに、お陰で母さんは孤独死だ」

ぶつけようのない悲しみから、その死を夫のせいにしたいのかもしれない。

「それに飽きたらず今度はネオンだと? 俺達が提出した請願書は無視なのか?!」

服部さんは、ドン! と机を叩いた。
その勢いで湯飲みが倒れお茶がテーブルに流れていく。
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