く ち な し―身代わりの恋
空から、ポツリ…と雨が降り出して、それはあっという間に激しさを増した。

「困ったわ、家の者呼ばないと」

婦人が濡れた白髪をハンカチで拭いながら呟く。
聞こえないフリも出来ずに、車で来ていた私は、

「ご自宅までお送りしますよ」

と、また愛想笑いを浮かべて、きりッと胃が痛くなった。
恐らく送っただけでは済まない。

奥様を送ると、先の誘い通り「お茶」をご馳走になり、それから何だかんだと二時間近くお喋りの相手をする事になった。
何気ない話から子供虐待の話、尽きる事なく婦人は話し続け、

「板垣さんは35歳なら、そろそろ子作りを本気で考えないといけないわねぇ。夫婦の愛が熱いうちに」

一番触れられたくない所を突かれて、愛想笑いも朽ち果てた。

…本気で、欲しかったわよ。

子供も。
夫の愛情も―――

婦人の家を後にした時は、空は真っ黒で雷まで鳴っていた。
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