く ち な し―身代わりの恋
「起きた? 丁度良かった」

台所にいた大橋が玉子がゆを持ってきた。
いい匂い。
出汁と卵の香りが優しい。

「とりあえず食べてまた薬飲みなよ」

それをテーブルに置き、私を椅子に座らせてレンゲを渡してくれた。

「凄い。あなたが作ったの?」

「別に凄くないさ、食べられそう?」

「うん。頂きます」

一口入れただけで優しい味が広がる。
茶碗の中はあっという間になくなった。

「ご馳走様、本当に美味しかった」

「良かった」

私が完食する側で、大橋は小さめのノートパソコンを開いて何やら仕事をしている。

「戻らなくていいの?」

会社にも。
家にも。

「大丈夫。なんなら泊まってもいい」

大橋が悪戯な目をして私を見た。

「そんな事したら疑われるわよ」

私は、夫が不在だからいいけど。

「いいんだ、それはそれでお互い様だから」

意味深な返しをした大橋は、私の食器を片付けると薬用の白湯を用意した。

「飲んだら、また休んでて。梓が帰りたくなったら帰すから」

「……はい……」

至りにつくせり。

この人は、看病の為に私をここへ連れてきたんだ。
ちゃんと、安らげるはずの家庭があるのに。

込み上げてくるものも一緒に、私は薬を喉の奥に流し込んだ。
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