春がつれてきたきみは・・・

いざ、月夜川へ

駅に見送りに来てくれたのは、中学の剣道部の顧問の森田先生だけだった。

父は事件発生で緊急出動。
アタルがまた熱を出したから見送りに来たがったけれど母とお留守番。

そして、元々私が進学するはずだった高校の剣道部にはアキや他の部員のほとんどの進学が決まっていて、春休みなのにすでに稽古は始まっていた。

その日も当然部活はあったらしく、森田先生がすまなそうに言った。

「田代、元気で頑張れ!月夜川の稽古は厳しいと思うが田代ならできる!」

「できるかな・・私なんかに・・」

チキン野郎を私になんか救えるかな、と言ったつもりだったけど森田先生は本当の理由を知らないから涙目になって

「もちろんだ!田代はなんたって粘り強い。どんなことがあっても耐えられる強い子だ。ずっとそうだっただろ?ほんとによく頑張った」

やだ。今生の別れでもあるまいし、泣かないでよ、先生。

でも森田先生は私の両手をギュッと握って涙をこぼした。

「田代。頼りない顧問で本当にすまなかった。これからは月夜川の強い監督さんに守ってもらえよ」

あの・・守るのは私なんですけど、とは言わず、ただ頷いた。

父からはくれぐれも彼の沽券に関わることなのだから誰にも口外しないようにと厳しく言われている。

例え森田先生でも本当のことは言えないのだ。

「森田先生!アキのこと、よろしくね」

もう高校生になるのだから森田先生だってあまりアキと顔を合わせる機会は減るだろうけど一応頼んでおいた。

アキは剣道部にいるには優しすぎる。

森田先生は涙をポロポロ流しながら「田代・・」と言ったきり何も言えなかった。
< 6 / 7 >

この作品をシェア

pagetop