この恋が、すべてのはじまり。〜学校一の美女が毎日のようにいじめてくる地味子は、彼女が崇拝する神インフルエンサーです〜
第3話:仕掛けられた罠と、1億人の包囲網
南くんのノートを破かれたあの日から、私の対応は変わった。
ただ怯える地味子を演じるのは終わり。
泳がせて、あなゆきたちが「言い逃れできない決定的な証拠」を自ら晒すように仕向けるのだ。
チャンスはすぐにやってきた。
学園の創立記念パーティーを数日後に控えた、ある日の放課後。
教室で一人残って課題をしていた私のもとに、あなゆき、麗奈、美羽、愛菜の4人がやってきた。
その手には、パーティーの受付で配られる予定の、大量のパンフレットが握られている。
「ねえ、地味子の如月さん。ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど」
あなゆきが猫なで声で言った。
取り巻きの麗奈が、その大量のパンフレットを私の机にドン!と叩きつける。
「これさ、明日の朝までに全部屋のクラス分に仕分けして、各教室に配っておいて。あなゆき様はこれから南くんとデートだから。あ、もちろん夜間は校舎が閉まるから、今から2時間以内に終わらせてね? 終わらなかったら……どうなるか分かってるよね?」
時計の針はすでに午後5時。校舎が閉まるのは午後7時だ。
数百人分のパンフレットを一人で仕分けして配るなんて、物理的に不可能な量だった。
「……わかりました。やっておきます」
私がうつむいて力なく答えると、あなゆきたちは「ギャハハ!」と下品に笑った。
「マジで従順な犬。ウケる!」
「じゃあね、ブス。しっかり働きなよ!」
彼女たちが教室を出ていく。
静まり返った教室で、私はポケットから自分のスマホを取り出した。
画面には、彼女たちとの会話が最初から最後までバッチリ録音されている。
(2時間でこの量? 無理に決まってるじゃん。……普通の人ならね)
私は不敵に微笑むと、自分の「葵。」としての裏アカウント——ではなく、フォロワー1億人の【本尊(公式アカウント)】を開いた。
そして、あなゆきたちが絶対に予想だにしない方法で、反撃の狼煙(のろし)を上げたのだ。
私はスマホのインカメラを起動し、自分の顔が写らないように、山積みのパンフレットと夕暮れの教室を画角に収めた。
そして、音声加工アプリで自分の声をいつもの「葵。」の声に変え、ライブ配信のボタンをタップした。
通知が行き渡った瞬間、同時視聴者数が一瞬で10万人、50万人、100万人へと跳ね上がっていく。
『みんな、こんばんは。「葵。」です。……実は今、ちょっと困ったことがあって』
コメント欄が「葵ちゃん!?」「どうしたの!?」「何でも助けるよ!」と凄まじい勢いで埋まる。
『実はね、私の大切なお友達が、学校である男の子を巡る理不尽な嫉妬から、毎日いじめを受けてるの。教科書を破かれたり、ノートを引き裂かれたり……。今もね、「2時間以内にこの大量のパンフレットを一人で仕分けして配れ、できなかったらどうなるか分かってるな」って脅されて、一人で泣きながら作業してるんだ。これ、どう思う?』
画面の向こうの100万人が一斉に激怒した。
「最低すぎる!」「どこの学校!?」「そいつらの名前晒せ!」
『ううん、名前はまだ言えない。でもね……そのいじめの主犯格の女の子、実は私の熱狂的なファンなんだって。私のSNSに毎日「大好き」ってコメントをくれるの。……裏で人を傷つけながら、私に愛を叫んでる。私、それがすごく悲しくて、悔しいんだ』
演出として、少し声を震わせてみる。効果は抜群だった。
世界中のフォロワーたちが、あなゆきという「見えない敵」に対して凄まじい怒りの炎を燃やし始めた。
『だからみんな、お願い。私の友達を助けると思って、このパンフレットの仕分け作業、温かい目で見守ってて(いいね)をくれる?』
私はライブ配信を切り、一つの「罠」を仕掛けた。
あなゆきが崇拝する「葵。」の公式アカウントから、あなゆきの個人アカウントへ、直々にダイレクトメッセージ(DM)を送信したのだ。
【葵。:@anayuki_monju いつも応援ありがとう! 今、ライブ配信で話した「私の友達をいじめてるファン」って……もしかして、あなたのことじゃないよね? 明日の朝、その友達の机に、破かれたノートの弁償として『新しいノート』が置いてあったら、私の勘違いだったって安心できるんだけどな。】
画面の向こうで、あなゆきがどんな顔をするか想像するだけで、笑いが込み上げてくる。
(さあ、あなゆきちゃん。大好きな『神(わたし)』からの直々のご指名だよ? どう動く?)
翌朝。
私がいつも通り「地味子」の姿で教室に入ると、そこには奇妙な光景が広がっていた。
あなゆきが、幽霊でも見たかのように真っ青な顔で、ガタガタと震えながら私の席の前に立っていた。
その手には、新品の高級なノートが握られている。
周りの取り巻きたちも、完全に怯えきって声を失っていた。
「あ、あの……如月さん」
あなゆきが、蚊の鳴くような声で私を呼んだ。
「これ……南くんのノートのお詫び。……本当に、ごめんなさい」
プライドの塊だった学校一の美女が、地味子の私の前で、今にも泣き出しそうな顔で頭を下げている。
(お、冷や汗ダラダラじゃん。フォロワー1億人の『神』から、ピンポイントで『お前がいじめっ子か?』って詰め寄られたんだもんね。そりゃ心臓止まるわ!)
私は眼鏡の奥で冷徹に笑いながら、従順な地味子の声で言った。
「あ、ありがとう、あなゆきさん……。でも、どうして急に?」
「それは……その……ッ!」
あなゆきは本当の理由を言えるはずがなかった。自分が「葵。」に嫌われかけているなんて、恥ずかしくて口が裂けても言えない。
しかし、これで終わりだと思うなら大間違いだ。
私が受けた仕打ち、そして何より、南くんの優しさを踏みにじった罪は、ノート1冊で帳消しにできるほど軽くはない。
「如月さん、ちょっといい?」
後ろから、心配そうな声がした。振り返ると、南くんが立っていた。
あなゆきは南くんの姿を見た瞬間、弾かれたように私から距離を取った。
私のリベンジは、まだ始まったばかり。
あなゆきを精神的な極限まで追い詰める、第2ステージの幕が上がる——。
ただ怯える地味子を演じるのは終わり。
泳がせて、あなゆきたちが「言い逃れできない決定的な証拠」を自ら晒すように仕向けるのだ。
チャンスはすぐにやってきた。
学園の創立記念パーティーを数日後に控えた、ある日の放課後。
教室で一人残って課題をしていた私のもとに、あなゆき、麗奈、美羽、愛菜の4人がやってきた。
その手には、パーティーの受付で配られる予定の、大量のパンフレットが握られている。
「ねえ、地味子の如月さん。ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど」
あなゆきが猫なで声で言った。
取り巻きの麗奈が、その大量のパンフレットを私の机にドン!と叩きつける。
「これさ、明日の朝までに全部屋のクラス分に仕分けして、各教室に配っておいて。あなゆき様はこれから南くんとデートだから。あ、もちろん夜間は校舎が閉まるから、今から2時間以内に終わらせてね? 終わらなかったら……どうなるか分かってるよね?」
時計の針はすでに午後5時。校舎が閉まるのは午後7時だ。
数百人分のパンフレットを一人で仕分けして配るなんて、物理的に不可能な量だった。
「……わかりました。やっておきます」
私がうつむいて力なく答えると、あなゆきたちは「ギャハハ!」と下品に笑った。
「マジで従順な犬。ウケる!」
「じゃあね、ブス。しっかり働きなよ!」
彼女たちが教室を出ていく。
静まり返った教室で、私はポケットから自分のスマホを取り出した。
画面には、彼女たちとの会話が最初から最後までバッチリ録音されている。
(2時間でこの量? 無理に決まってるじゃん。……普通の人ならね)
私は不敵に微笑むと、自分の「葵。」としての裏アカウント——ではなく、フォロワー1億人の【本尊(公式アカウント)】を開いた。
そして、あなゆきたちが絶対に予想だにしない方法で、反撃の狼煙(のろし)を上げたのだ。
私はスマホのインカメラを起動し、自分の顔が写らないように、山積みのパンフレットと夕暮れの教室を画角に収めた。
そして、音声加工アプリで自分の声をいつもの「葵。」の声に変え、ライブ配信のボタンをタップした。
通知が行き渡った瞬間、同時視聴者数が一瞬で10万人、50万人、100万人へと跳ね上がっていく。
『みんな、こんばんは。「葵。」です。……実は今、ちょっと困ったことがあって』
コメント欄が「葵ちゃん!?」「どうしたの!?」「何でも助けるよ!」と凄まじい勢いで埋まる。
『実はね、私の大切なお友達が、学校である男の子を巡る理不尽な嫉妬から、毎日いじめを受けてるの。教科書を破かれたり、ノートを引き裂かれたり……。今もね、「2時間以内にこの大量のパンフレットを一人で仕分けして配れ、できなかったらどうなるか分かってるな」って脅されて、一人で泣きながら作業してるんだ。これ、どう思う?』
画面の向こうの100万人が一斉に激怒した。
「最低すぎる!」「どこの学校!?」「そいつらの名前晒せ!」
『ううん、名前はまだ言えない。でもね……そのいじめの主犯格の女の子、実は私の熱狂的なファンなんだって。私のSNSに毎日「大好き」ってコメントをくれるの。……裏で人を傷つけながら、私に愛を叫んでる。私、それがすごく悲しくて、悔しいんだ』
演出として、少し声を震わせてみる。効果は抜群だった。
世界中のフォロワーたちが、あなゆきという「見えない敵」に対して凄まじい怒りの炎を燃やし始めた。
『だからみんな、お願い。私の友達を助けると思って、このパンフレットの仕分け作業、温かい目で見守ってて(いいね)をくれる?』
私はライブ配信を切り、一つの「罠」を仕掛けた。
あなゆきが崇拝する「葵。」の公式アカウントから、あなゆきの個人アカウントへ、直々にダイレクトメッセージ(DM)を送信したのだ。
【葵。:@anayuki_monju いつも応援ありがとう! 今、ライブ配信で話した「私の友達をいじめてるファン」って……もしかして、あなたのことじゃないよね? 明日の朝、その友達の机に、破かれたノートの弁償として『新しいノート』が置いてあったら、私の勘違いだったって安心できるんだけどな。】
画面の向こうで、あなゆきがどんな顔をするか想像するだけで、笑いが込み上げてくる。
(さあ、あなゆきちゃん。大好きな『神(わたし)』からの直々のご指名だよ? どう動く?)
翌朝。
私がいつも通り「地味子」の姿で教室に入ると、そこには奇妙な光景が広がっていた。
あなゆきが、幽霊でも見たかのように真っ青な顔で、ガタガタと震えながら私の席の前に立っていた。
その手には、新品の高級なノートが握られている。
周りの取り巻きたちも、完全に怯えきって声を失っていた。
「あ、あの……如月さん」
あなゆきが、蚊の鳴くような声で私を呼んだ。
「これ……南くんのノートのお詫び。……本当に、ごめんなさい」
プライドの塊だった学校一の美女が、地味子の私の前で、今にも泣き出しそうな顔で頭を下げている。
(お、冷や汗ダラダラじゃん。フォロワー1億人の『神』から、ピンポイントで『お前がいじめっ子か?』って詰め寄られたんだもんね。そりゃ心臓止まるわ!)
私は眼鏡の奥で冷徹に笑いながら、従順な地味子の声で言った。
「あ、ありがとう、あなゆきさん……。でも、どうして急に?」
「それは……その……ッ!」
あなゆきは本当の理由を言えるはずがなかった。自分が「葵。」に嫌われかけているなんて、恥ずかしくて口が裂けても言えない。
しかし、これで終わりだと思うなら大間違いだ。
私が受けた仕打ち、そして何より、南くんの優しさを踏みにじった罪は、ノート1冊で帳消しにできるほど軽くはない。
「如月さん、ちょっといい?」
後ろから、心配そうな声がした。振り返ると、南くんが立っていた。
あなゆきは南くんの姿を見た瞬間、弾かれたように私から距離を取った。
私のリベンジは、まだ始まったばかり。
あなゆきを精神的な極限まで追い詰める、第2ステージの幕が上がる——。