この恋が、すべてのはじまり。〜学校一の美女が毎日のようにいじめてくる地味子は、彼女が崇拝する神インフルエンサーです〜

第4話:神の視線と、王子様の告白

「如月さん、あなゆきが……何か言ってきた?」
南くんは、青ざめて席に戻っていくあなゆきの背中を不審そうに見つめた後、私を覗き込んできた。その瞳には、純粋に私を心配する色が浮かんでいる。
「ううん、大丈夫だよ。ノートの件、謝ってくれたの」
私が新品のノートを見せると、南くんはホッとしたように表情を緩めた。
「よかった……。あなゆき、いつもはあんなに素直に謝るタイプじゃないから、心配だったんだ。もしまた何かあったら、絶対に俺を頼ってね」
「ありがとう、南くん」
私は微笑みながらも、胸の奥が少しズキリとした。
(南くん、本当に優しいな……。あなゆきが私の正体を知って破滅する時、彼はどんな顔をするんだろう)
そんな私の視線の先で、あなゆきは今にも過呼吸になりそうなほどスマホを握りしめ、震えていた。
(そりゃそうだよね。だって、あなゆきのスマホには、今頃『葵。』からの追撃メッセージが届いているはずだから)
昨夜、私はあなゆきにさらに一枚、トラップを仕掛けておいたのだ。

【 葵。:ノートの件、お友達から『ちゃんと謝ってもらった』って連絡が来たよ! よかった、私の勘違いで。でもね、そのお友達、まだ学校で誰かに上履きを隠されたり、悪口を言われたりして泣いてるみたいなの。私、そういう意地悪をする人が世界で一番大嫌い。もしその犯人が分かったら……私、1億人のみんなにその人の名前を教えて、みんなで通報(ブロック)しちゃおうかなって思ってるんだ♪ 】

あなゆきにとって、フォロワー1億人の「葵。」に名前を晒されることは、社会的な死を意味する。
ネットストーカー、炎上、現実世界での居場所の喪失。すべてが秒読み段階に入ったのだ。

昼休み。いつもなら私を取り囲んで嘲笑っていた取り巻き三人衆(麗奈、美羽、愛菜)は、あなゆきに連れられて教室の隅で必死にヒソヒソ話をしていた。
「ねえ、あなゆき様、本当に『葵。』ちゃんからDMが来たの!?」
「静かにしてよ!……本当よ。もし私が如月をいじめてるってバレたら、私の人生終わりなのよ……!」
あなゆきは爪を噛みながら、完全にパニックに陥っている。
「じゃ、じゃあ、如月へのいじめはもう全部ストップだね!?」
「当たり前でしょ!……それどころか、あいつが『まだいじめられてる』って葵。ちゃんにチクったら、私が疑われるのよ!? これからは、あいつに誰も近づけないように護衛しなさい!」
(……護衛? ギャハハ! いじめっ子から一転してSP就任ですか!? どんなコントだよ!)
あなゆきたちの斜め上の決断に、私は机に突っ伏して必死に笑いを堪えた。
狙い通りだ。これでやつらは、私に指一本触れられないどころか、私の機嫌を損ねないようにビクビクして過ごすことになる。

そして放課後。
あなゆきたちが私の顔色を伺いながらソソクサと退室した後、私は一人、夕暮れの教室で帰る支度をしていた。
「如月さん」
声をかけられ振り返ると、誰もいない教室の入り口に、南くんが立っていた。いつもよりどこか緊張した面持ちで、彼は私の席まで歩いてくる。
「南くん? どうしたの?」
「……あなゆきと、別れてきたんだ」
「えっ……!?」
私の手が止まる。驚きで見上げる私に、南くんは真っ直ぐな視線を向けた。
「あなゆきが君にいじわるしてたの、本当は気づいてた。止めるのが遅くなってごめん。……俺、あなゆきの顔や華やかなところに惹かれて付き合ってたけど、中身を見てなかった。君を傷つけるような人と、これ以上一緒にいられない」
南くんは一歩、私に近づいた。夕日が彼の端正な顔を照らし、影を長く伸ばす。
「それに……俺が本当に惹かれてるのは、如月さん、君なんだ。地味だとか周りが言ってても関係ない。君の芯の強さや、優しいところに……ずっと目が離せなかった」
「南くん……」
ドクン、と心臓が跳ね上がる。
世界中の1億人から愛される「葵。」ではなく、目の前の、ただの冴えない地味子の「如月葵」が、ずっと好きだった男の子から告白されている。
これ以上ないほど幸せな瞬間。
だけど、私の心には、まだ冷徹な計画の続きが残っていた。
(あなゆき。南くんにフラれて、今頃ボロボロになってるよね。……でも、まだ足りない。私の恋を邪魔して、南くんの心をあんなに苦しめた罪の代償は、これから始まる創立記念パーティーで、文字通り【全世界】に支払ってもらうから)
「南くん、ありがとう。私——」
私は、自分の本当の姿を彼に見せる覚悟を決めた。
学園の創立記念パーティーまで、あと3日。
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