執愛隠した策士な御曹司は偽装婚約で激情露わに囲い堕とす
奏はすっかり意気消沈していて、まるできれいな大型犬が叱られてうつむいているように見え、千花はクスリと笑う。
そして腕を伸ばし、彼の髪を撫でて言った。
「わかってくれるならいいよ。本当は再会した当初、別れた六年前から変わらず想われていた事実が重くて、逃げたい気持ちになってた。でも今はすごくうれしく感じてるし、自分自身の力でグループのトップを目指す姿勢も尊敬してる。だから奏には、この先もずっと頑張ってほしい」
「……千花さん」
「わたしも奏に負けないように、頑張るから」
笑顔でそう告げたところ、彼が居住まいを正して口を開く。
「千花さんに、改めて言いたい。〝ふり〟なんかじゃなく、俺の本当の婚約者になってくれる?」
「それはもう少しつきあってからね。でも縁談を持ち込まれるのを回避するために、対外的には今のままでいいよ」
改めて恋人としてつきあうことになり、千花は面映ゆい気持ちを押し殺す。
すると奏がふいにポケットからスマートフォンを取り出し、突然どこかに電話をかけ始めた。
「お世話になっております、早瀬です。今夜出席を予定しておりました件でお電話をしたのですが――……」
彼は通話を切り、その後自社のスタッフに連絡を取る。
「お疲れさまです。このあとだけど、俺は所用で直帰します。何かあったらスマホに連絡をください」
通話を切った奏に、千花は戸惑って問いかけた。
「奏、仕事は……」
「このあとの予定は会社でデスクワークと、夜につきあいの集まりに顔を出すだけだったから、キャンセルした。だから千花さんと一緒に過ごせるよ」
「そんな、わたしはあとで出直すから、夜に改めて会おう? わざわざ予定をキャンセルするなんて申し訳ないし」
「念願叶って、ようやく千花さんの恋人になれたんだ。これ以上焦らされるのは無理だよ」
端整な顔に甘く見つめられ、千花の頬がじんわりと熱くなる。
彼がこちらの手を取り、指先に口づけながら言った。
「それとも、このあと予定がある? どうしても忙しいって言うなら待つよ」
「べ、別に予定はないけど……」
――それからの奏の行動は、速かった。
席から立ち上がった彼はコーヒー代を精算し、カフェを出る。そして会社の近くまで戻り、パーキングに停めた自身の車に千花を乗せると、十分ほどのところにある高級レジデンスに向かった。
まるでホテルのような雰囲気のエントランスに目を白黒させる千花を促し、奏は四階建ての最上階に向かう。カードキーで玄関を開け、中に入ってドアが閉まった瞬間、千花は彼に抱き寄せられていた。
「あ……っ」
強い力で掻き抱かれ、スーツ越しに硬い身体を感じて、かあっと顔が赤らむ。
わずかに力を緩められてホッとしたのも束の間、千花は覆い被さるように奏に口づけられていた。そのキスは長い飢えを物語るように激しく、ひとしきり貪って唇を離した奏が、瞳に押し殺した熱情を浮かべてささやく。
「――夢みたいだ。またこうして、千花さんに触れられるなんて」
「……っ」
熱を孕んだささやきに胸がいっぱいになり、彼の首を引き寄せた千花は、自分からその唇に口づける。
――六年ぶりに抱き合う行為は、ひどく情熱的だった。もつれ合うようにベッドに押し倒され、千花は奏に熱烈に愛される。まだ外は明るかったものの、いつしか日はすっかり暮れ、束の間の眠りから目が覚めると、傍らで肘をついて横たわる彼がじっとこちらを見つめていた。
「……もしかして、ずっとわたしの寝顔を見てた?」
千花の問いかけに、奏が笑って答える。
「うん。千花さんは寝てても可愛いなと思って」
上半身裸の彼は、広い肩幅や実用的な筋肉がついた上腕、しなやかな身体の線がドキドキするほど精悍で、目のやり場に困った千花は微妙に目をそらす。
身体の奥には、先ほどまでの情事の余韻が色濃く残っていた。するとそんなこちらの身体を抱き寄せた奏が、「ところで」と問いかけてくる。
「オレールからブランドのPRパーソンとして誘われたって言ってたけど、千花さんはそれを受けるつもりでいるの?」
眉を上げた千花は、すぐに首を横に振って答えた。
「ううん。すごくありがたいオファーだったけど、わたしはお母さんのことが心配だし、せっかく日本に帰ってきたんだからしばらくはこっちで頑張るつもり。だから断ろうと思って」
すると彼がホッとした表情になり、笑って言う。
「そっか、よかった。もしまたフランスに行くのなら、今度は俺が追いかけていかなきゃと思ってた」
「奏が?」
「うん。もう二度と千花さんと離れたくないし、今はやろうと思えばリモートで仕事ができるから。必要なときに日本と行き来する生活でも、全然構わないよ」
奏とフランスで一緒に暮らすことを想像し、千花は「それも楽しそうだな」と考える。
彼がこちらの髪に鼻先を埋めて告げた。
「俺がそのくらいの覚悟でいることを、心に留めておいてほしい。ずっと一緒にいられるように、最大限に努力するから」
「……うん」
胸がじんと熱くなるのを感じながら、千花は奏の背に腕を回す。
そして彼の裸の胸に顔を埋め、その匂いを吸い込みつつ想いを込めてささやいた。
「わたしも奏とずっと一緒にいられるように、最大限の努力をする。――あなたのことが好きだから」
そして腕を伸ばし、彼の髪を撫でて言った。
「わかってくれるならいいよ。本当は再会した当初、別れた六年前から変わらず想われていた事実が重くて、逃げたい気持ちになってた。でも今はすごくうれしく感じてるし、自分自身の力でグループのトップを目指す姿勢も尊敬してる。だから奏には、この先もずっと頑張ってほしい」
「……千花さん」
「わたしも奏に負けないように、頑張るから」
笑顔でそう告げたところ、彼が居住まいを正して口を開く。
「千花さんに、改めて言いたい。〝ふり〟なんかじゃなく、俺の本当の婚約者になってくれる?」
「それはもう少しつきあってからね。でも縁談を持ち込まれるのを回避するために、対外的には今のままでいいよ」
改めて恋人としてつきあうことになり、千花は面映ゆい気持ちを押し殺す。
すると奏がふいにポケットからスマートフォンを取り出し、突然どこかに電話をかけ始めた。
「お世話になっております、早瀬です。今夜出席を予定しておりました件でお電話をしたのですが――……」
彼は通話を切り、その後自社のスタッフに連絡を取る。
「お疲れさまです。このあとだけど、俺は所用で直帰します。何かあったらスマホに連絡をください」
通話を切った奏に、千花は戸惑って問いかけた。
「奏、仕事は……」
「このあとの予定は会社でデスクワークと、夜につきあいの集まりに顔を出すだけだったから、キャンセルした。だから千花さんと一緒に過ごせるよ」
「そんな、わたしはあとで出直すから、夜に改めて会おう? わざわざ予定をキャンセルするなんて申し訳ないし」
「念願叶って、ようやく千花さんの恋人になれたんだ。これ以上焦らされるのは無理だよ」
端整な顔に甘く見つめられ、千花の頬がじんわりと熱くなる。
彼がこちらの手を取り、指先に口づけながら言った。
「それとも、このあと予定がある? どうしても忙しいって言うなら待つよ」
「べ、別に予定はないけど……」
――それからの奏の行動は、速かった。
席から立ち上がった彼はコーヒー代を精算し、カフェを出る。そして会社の近くまで戻り、パーキングに停めた自身の車に千花を乗せると、十分ほどのところにある高級レジデンスに向かった。
まるでホテルのような雰囲気のエントランスに目を白黒させる千花を促し、奏は四階建ての最上階に向かう。カードキーで玄関を開け、中に入ってドアが閉まった瞬間、千花は彼に抱き寄せられていた。
「あ……っ」
強い力で掻き抱かれ、スーツ越しに硬い身体を感じて、かあっと顔が赤らむ。
わずかに力を緩められてホッとしたのも束の間、千花は覆い被さるように奏に口づけられていた。そのキスは長い飢えを物語るように激しく、ひとしきり貪って唇を離した奏が、瞳に押し殺した熱情を浮かべてささやく。
「――夢みたいだ。またこうして、千花さんに触れられるなんて」
「……っ」
熱を孕んだささやきに胸がいっぱいになり、彼の首を引き寄せた千花は、自分からその唇に口づける。
――六年ぶりに抱き合う行為は、ひどく情熱的だった。もつれ合うようにベッドに押し倒され、千花は奏に熱烈に愛される。まだ外は明るかったものの、いつしか日はすっかり暮れ、束の間の眠りから目が覚めると、傍らで肘をついて横たわる彼がじっとこちらを見つめていた。
「……もしかして、ずっとわたしの寝顔を見てた?」
千花の問いかけに、奏が笑って答える。
「うん。千花さんは寝てても可愛いなと思って」
上半身裸の彼は、広い肩幅や実用的な筋肉がついた上腕、しなやかな身体の線がドキドキするほど精悍で、目のやり場に困った千花は微妙に目をそらす。
身体の奥には、先ほどまでの情事の余韻が色濃く残っていた。するとそんなこちらの身体を抱き寄せた奏が、「ところで」と問いかけてくる。
「オレールからブランドのPRパーソンとして誘われたって言ってたけど、千花さんはそれを受けるつもりでいるの?」
眉を上げた千花は、すぐに首を横に振って答えた。
「ううん。すごくありがたいオファーだったけど、わたしはお母さんのことが心配だし、せっかく日本に帰ってきたんだからしばらくはこっちで頑張るつもり。だから断ろうと思って」
すると彼がホッとした表情になり、笑って言う。
「そっか、よかった。もしまたフランスに行くのなら、今度は俺が追いかけていかなきゃと思ってた」
「奏が?」
「うん。もう二度と千花さんと離れたくないし、今はやろうと思えばリモートで仕事ができるから。必要なときに日本と行き来する生活でも、全然構わないよ」
奏とフランスで一緒に暮らすことを想像し、千花は「それも楽しそうだな」と考える。
彼がこちらの髪に鼻先を埋めて告げた。
「俺がそのくらいの覚悟でいることを、心に留めておいてほしい。ずっと一緒にいられるように、最大限に努力するから」
「……うん」
胸がじんと熱くなるのを感じながら、千花は奏の背に腕を回す。
そして彼の裸の胸に顔を埋め、その匂いを吸い込みつつ想いを込めてささやいた。
「わたしも奏とずっと一緒にいられるように、最大限の努力をする。――あなたのことが好きだから」