過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
第一話 新任副社長は、私の「推し」でした
「はぁ……」

 色づき始めたイチョウ並木が映るガラス扉の前で、思わず重いため息が漏れた。

 入社して三年、出社するのがこれほど憂鬱な朝は初めてだった。昨夜はよく眠れず、結局朝まで起きていた。どこか頭がくらくらとして、頭痛がする。

 月曜日だというのにこれでは、業務に支障が出てしまうかもしれない。優秀な秘書として自分が培ってきた努力にほころびができてしまいそうで不安になる。

 それもこれも、あの男のせいなのだが、必ずしも彼が憎らしいわけではなくて……。

「あー……、なんで同窓会になんか行っちゃったんだろ……」

 小塚(こづか)七海(ななみ)は、もう一度盛大なため息をつくと、気持ちを切り替えるように背筋を伸ばして自動扉の中へと進んだ。

 エレベーターに乗り込み、役員室のみがある最上階フロアに到着した。廊下の突き当たりで、作業着の男たちがダンボールを抱えている。それも、一つや二つではない。しかも、運び込んでいる先は、ずっと使われていなかった会長室だ。

 七海が就職したときには、会長は出社していなかった。その会長も、半年前に亡くなった。しかし、遺品整理というのもおかしい。会長室には備え付けの机や椅子以外、何も置かれていなかったはずだ。

「待ってくださいっ。本日、このフロアで作業予定は入ってなかったはずですが」

 足早に近づいて、作業着の男性に声をかけたときだった。会長室から中年の男が出てくる。

「小塚秘書、止めなくてかまわない。私が頼んだんだ」
「しゃ、社長っ。……社長が手配されたとは知らず、申し訳ございません。私の確認不足です」

 中年の男は、友澤(ともさわ)ビルディング社長、友澤洋一(よういち)だった。頭を下げる七海に、彼は穏やかに話す。

「急なことでね、気にすることはないよ」
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