過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
「うちの会社の秘書って、みんな愛想がないよね。なんで、小塚さんみたいなパッとしない人が秘書になれたのかなぁって思ってたけど、先輩見てたら納得しちゃった」

 嫌味のつもりだろうが、自分でも、友澤ビルディングの合格通知をもらったときは驚いたのだから、まあそう思われても仕方ないとしか思えない。

「ふーん。全然動じないんだ?」
「先輩はとてもお綺麗だとは思ってますけど」

 質素なメイクで理知的な先輩たちを目標にしてきた七海にとって、彼女のその言葉だけは看過できないと言い返してみたが、梨々子はそんなことどうでもいいとばかりに、意地悪そうに小声で言う。

「私、知ってるんです。小塚さんが副社長と結婚したこと」

 驚いたが、かろうじて皮膚という皮膚を動かさずに済んだ。昨日、うかつに涼太の前で動揺してしまったから、あれがいい教訓になっていたのかもしれない。

「否定しないんですか?」
「事実でもそうでなくても、業務上知り得た情報からお尋ねなら問題だと思います」
「問題はそちらじゃないかしら? 公私混同で人事を行った副社長の方が越権行為だもの。山村部長も問題にすると言ってますよ」

 部長が一社員にそんな話をするだろうか。疑念が頭をもたげたが、七海は無言で彼女に背を向けた。

 話す価値のない会話に付き合わされた気持ち悪さが、樹生と穏やかに過ごせた朝の平穏を台無しにするようだった。
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