過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜



「今夜の友澤エステート社長、綿内(わたうち)様とのご会食ですが、イベリスホテルのフレンチ、ル・キャメリアの個室を手配しました」
「ありがとう。小塚くんも同席するように」
「かしこまり……え?」

 七海は首をかしげたまま、執務机に向かう樹生を眺めた。こちらをまっすぐ見つめる目は笑っていない。冗談で言っているわけではないようだ。

「綿内氏とは初めて?」
「あ、いえ。何度かこちらに来られたときにお会いしていますが、覚えてくださってるかどうかはわかりません」

 困惑したまま、七海はそう答えた。

 友澤ビルディングのグループ会社は複数あるが、友澤エステートは高級マンションの開発を担っている。いま、樹生と暮らしているマンションも、エステートが手がけたものだ。

 友澤の親族が社長に就いている企業は、親会社の友澤ビルディングと子会社の友澤ビルマネジメントだけで、他のグループ会社の社長は優秀な従業員の抜擢人事によって決められている。

 綿内はその代表格で、長年友澤を支えていると聞いている。そんな辣腕(らつわん)を振るう実力者と会うなんて聞いていない。

「それでは、今日覚えてもらうとしよう。もう下がっていいよ」
「はい」

 聞きたいことは山ほどあったが、全部飲み込んで、七海は自分のデスクに戻った。

(折田さんの話もどうしようかな……)

 今日は朝から何件かアポイントの電話に対応していて、ゆっくり考える時間もなかった。

 ただかまをかけられただけならいいが、やけに梨々子が自信満々だったのも気になっている。

 本当に山村が問題にすると言っているなら、来月の月初めにある幹部会議が荒れる可能性もある。

(それまでに話すかどうか決めないといけないけど……)
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