過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
 どうしているの? それを言葉にする前に抱きすくめられていた。

「七海が……車から見えて。遅くなって、悪かった」

 息切れなのか、焦りなのか、わずかに喉を震わせる彼を見たら、声がうまく出せなくて、首を振るのでせいいっぱいだった。

 樹生は彼女を後ろ手に回すと、苦痛に歪む表情の梨々子の前にかがんだ。

「相応の責任を取ってもらう」
「結婚してるって、バラすわよ」
「ささいな話だ」
「その女がどうなってもかまわないって言うの」

 梨々子は顔を背けると、鼻で笑った。

「結局、どの男も一緒よね。利用価値がなくなったら捨てるだけだもの」

 そう吐き捨てて、梨々子は七海を眺めて、あざ笑うような笑みを浮かべた。

「残念ね。お互い、バカな男にだまされて」

 梨々子は立ち上がると、スカートについた砂をはらって、「あーあ」とため息をつきながら、階段を降りていく。

「いいんですか? 行かせて」
「どうせ逃げられない。……けがはないか?」

 樹生は心配そうに頬をするりとなでてくると、ふたたび強く抱きしめてくる。

「もう、大丈夫です。樹生さんが来てくれたから」
「俺のせいで、怖い思いをさせた」
「樹生さんのせいじゃないです。悪いのは全部、あの人たちです」

 そっと樹生の背中に手を回す。彼に抱きしめられていると、ふしぎなぐらい落ち着いた。だから、彼が震えていることにも気づけた。

「大丈夫ですよ」

 もう一度言って、彼の胸に顔をうずめた。焦りで落ち着かない彼の鼓動を、震えが止まない指先を、どうにかして落ち着かせたかった。
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