過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
第七話 契約結婚の終わり



 ノーカラーコートを脱ぐと、破れて血のついたストッキングがやけに気になった。

「先に、シャワー浴びてきていい?」

 樹生に気づかれないように、そそくさとバスルームへ向かうと、彼に腕をつかまれた。

「誘われたような、とても魅力的な言葉なんだが、傷の手当てを先にしよう」
「何言って……」

 真っ赤になった顔をうつむけると、彼は小さく笑った。

「こんなことにならなきゃ、こんな会話ももっと楽しめたんだけどね」
「まだ気にしてるの?」
「当然だ。折田には、すぐにでも退職届を出してもらう。もう二度と、七海の前には姿を見せないように約束させる」
「……ありがとう。ちょっと安心」

 樹生はやると言ったらやる人だから、何も不安はない。

「七海が望むなら、警察に行ってもいい。ただ、事情聴取されたら、七海も説明に苦慮するだろう」

 なぜこんな事件が起きたのか。突き詰めれば、友澤ビルディングのお家騒動が発端だ。警察沙汰になれば、巨大なオーナー企業の凋落に、マスコミは大騒ぎするだろう。

 それでは、これまで隠密に進めてきた社員の処分が無駄になるだけでなく、株価にも影響が出るだろう。彼が懸命に守ろうとしてきたものを壊せるはずがなかった。

「そこまでしなくていいよ。ほら、けがもすり傷で済んだし」

 スマートフォンはまだ新しくしたばかりだったのに、ずいぶんダメージを受けてしまった。梨々子に弁償するようにだけ言えたらそれでいい。

「シャワー、浴びてくるね」
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