過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
 かける言葉が見つからず、黙っていると、樹生はゆっくり立ち上がり、「また来るよ」と墓石に背を向けた。

「親父は、友澤のような家にいたら寿命が縮まったかもしれないなんて強がりを言ったけど、俺は母の言葉を信じたいと思ったんだ」
「だから……、結婚したかったの?」

 樹生はわずかに首をかたむけた。そうであるようなないような……ただ、母の死をきっかけに結婚を意識したのは間違いないというように。

「次に出会うときは、七海と結婚するときだって決めていたんだ。同窓会に来ると知ったときに、そう決めた」
「同窓会に行ったのは、樹生さんが来るって聞いたからだよ」

 驚いたようにこちらを見るが、今さらだった。彼は目を細めて微笑むと、手を握りしめてきた。

「俺たち、何年かかっても出会う運命だったみたいだね」
「あきらめなきゃ、いつか叶うよ」
「ん?」
「私が秘書になりたいって言ったら、樹生さんがそう言ってくれた」
「叶えたんだな、七海は」
「うん。樹生さんをあきらめなくてよかった」
「……俺も」

 樹生は穏やかだった。成績優秀で、やり手の経営者である彼の本当の姿が垣間見えたような気がする。

「結婚しよう、七海」
「もうしてるよ」

 くすくす笑うと、スッと伸びてきた指に頬をなでられた。

「ちゃんと、言いたかったんだ」
「……ありがとう。前のプロポーズもうれしかったけど、今ももっとうれしいよ」

 にこりとすると、今度は両腕で抱きすくめられた。

「そんなに抱きしめなくても逃げないよ」

 冗談を言ってみたが、樹生は黙ってしっかりと抱きしめてくれていた。何もないのに、どうしてか涙がこぼれてきそうになって、彼の胸に鼻先をうずめる。

 きっとこれが幸せなのだろう。そして彼も同じように幸せをかみしめている。もう少しだけ。もう少しだけ、この幸せを分かち合いたいと、ふたりはお互いを抱きしめ合っていた。






【完】
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