過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
***


「母は器用な人だった」

 加賀理沙子が眠る墓へ向かう途中、運転席の樹生がぽつりとつぶやいた。

「樹生さんに似てるんですね」
「どうかな。七海に似てるかもしれないよ」
「私ですか?」
「一人で生きていけそうなところとかね」

 ほんの少し横目で言った彼の表情は、穏やかであり、悲しげでもあった。

「私は……樹生さんがいないと生きてるって思えないよ」

 そう言ったら、彼は「俺も」と、柔らかな笑顔を見せた。

 車を走らせてから、一時間以上がすぎた。理沙子の実家のあった郊外に、加賀家のお墓はある。理沙子には兄弟がおらず、両親も他界している。樹生にとって加賀家に身寄りはなく、墓参りも年に一度、洋一とともに訪れているだけだという。

『七海が来てくれたら、母も喜ぶよ』

 樹生に言われて、週末の今日、墓参りに来たのだった。

 菊の花を抱いて、墓地の中へと進む。奥まった場所にある墓石には、まだ真新しい花が供えられていた。

「親父が来たのかな」
「月命日は今日だったよね?」
「俺が来ると思って、早めに来たのかもな。俺の結婚を報告しなきゃな、なんて言ってたからさ」

 七海は色とりどりの菊から傷んだ花だけ取り除き、彼と選んだ白い菊と合わせて飾った。かすみ草やキキョウも合わさって、品よく華やかになる。

 きっと、理沙子はこのような花が似合う人だったのではないかと思えた。

 それから樹生は墓石に向かって七海を紹介した。ふたりで手を合わせ、顔をあげると、彼はまるで長い会話を楽しむようにしばらく両手を合わせていた。

 鳥の鳴き声が聞こえ、ようやく顔をあげた彼は、墓石を見上げたまま言う。

「結婚を必要としてない人だったんだ、母は。でも病気で倒れたとき、結婚していたらもっと長く生きられたんじゃないかと思ったよ。病床につく母も、そんなことを言っていたしね」
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