高額報酬で彼女を募集したら、本当に欲しかった恋が始まりました。
第1話:まともな彼女募集。
残暑のじめじめした空気が、ようやく乾いた爽やかな秋風へと入れ替わる季節。
どこからともなく漂ってくる金木犀の甘い香りが、なぜだか乾ききった心を少しだけ切なくさせる。

夕暮れの街を高層マンションの窓から眺めながら、一人の青年は小さくため息をついた。

「俺はいったいいつから、まともに恋人と呼べる女性がいなくなったんだろう」

金で繋がったガールフレンドなら何人もいる。
食事に誘えば喜んで来る女、ブランド品をプレゼントすればその時だけ浮かれる女。

高級ホテルや海外旅行を用意すれば、誰もが「好き」と口にする。

だが、その言葉が自分自身へ向けられたものなのか、それとも財布へ向けられたものなのか陽介にはもう分からなくなっていた。

青年の名前は「菊池 陽介(きくち ようすけ)」二十五歳。
父親が経営する大手商社で働く会社員だ。
都心の高級タワーマンションで一人暮らしをし、生活に困ることなど一切ない。
なぜなら、菊池家は代々土地を所有する名家であり、誰もが知る富裕層だったからだ。

給料だけでも一般人よりはるかに多い。
それに加え、親からの援助も惜しみなく受けているため、欲しい物で我慢した経験はほとんどない。
だが、その恵まれた生活と引き換えに失ったものもあった。

「人を信じる心」だ。

友人はいる・・・しかし、その多くは陽介の財力に惹かれて集まってきた人間ばかり・・・。
誕生日には豪華なプレゼントを期待され、食事へ行けば当然のように支払いを任される。
最初は「そんなものか」と思っていた。

だが、何年も同じことを繰り返しているうちに、誰の笑顔も本物には見えなくなってしまった。
女も同じだった。
陽介が「御曹司」であると知った瞬間、態度が変わる。

「好き」と言われても、その裏側にはブランドバッグや高級車、贅沢な暮らしへの期待が透けて見える。

もちろん、全員がそうとは限らない。
それでも、そういう女性ばかりに出会い続ければ、人は疑心暗鬼にもなる。

「世の中に、本当にまともな女性なんているのか?」

そんな考えが頭から離れなくなっていた。
とはいえ、陽介自身は世間が想像するような横柄な金持ちではない。
幼い頃から両親に甘やかされることなく育てられ、「金は人を幸せにも不幸にもする」と何度も教えられてきた。

さらに、小学生の頃から通い続けている合気道の道場では、礼儀や思いやり、人を敬う心を叩き込まれてきた。
そのおかげで、金に溺れた人間にはならずに済んでいた。

しかし、このまま誰も信じられない生活を続けていれば、いずれ心が病み自分自身を失う・・・個人そのものが変わってしまうかもしれない。
そんな漠然とした不安を抱えていた。
だが、このときの陽介はまだ知らなかった。

数か月後、一人の女子高生との出会いが、自分の人生を根底から変えてしまうことを・・・。
もちろん、その少女もまた、陽介の人生を大きく変える存在になるとは思ってもいなかった。

陽介が望んでいたものは、ただ一つ・・・金ではない、地位でも名誉でもない。

「純粋に、自分という人間を愛してくれる女性」

それだけだった。
そんな女性なんて、本当に存在するのだろうか?・・・そんなことを考え続けた末、陽介は常人なら思いつかない行動に出る。

「そうだ・・・募集してみよう」

ネットのマッチングサービスは信用できないし、プロフィールなど、いくらでも取り繕える。
だからこそ、あえて昔ながらの方法を選んだ、それはタウン誌の求人広告欄だった。
そこへ、陽介はこんな内容を掲載した。

『まともな彼女募集 年齢二十歳~三十歳』

さらに、その下にはこう書き加えた。

『お付き合いしてくださる方、高額報酬・高額ボーナスあり』

え?って・・・自分で書いておきながら思った。
「まともな彼女募集」と書いておいて、「高額報酬あり」はどう考えても矛盾している。
それでは結局、お金目当ての女性しか集まらないではないか。
だが、見ず知らずの男と付き合おうなどという女性は、無報酬でなんか普通は応募
なんかしない・・・。
多少なりとも興味を持ってもらうには、それくらいの条件を提示するしかないと思ったのだ。

完全に堂々巡りだった。
普通なら彼女募集の広告など出そうとは思わない、友人に相談しても、間違いなく笑われる。
それでも陽介は、本気だった。

藁にもすがる思いとは、まさにこのことなのだろう。
マッチングアプリや出会い系サイトは最初から論外・・・ならば、自分の運命くらい自分で切り開いてみよう。
そんな半ばやけくその決断だった。

しかし、「まとも」とは何なのだろう・・・金に興味がない人間?・・・嘘をつかない人間?・・・優しい人間?・・・陽介自身、その答えは分からない。
それでも、自分が会えば、その女性がどんな人かきっと分かる、そんな漠然とした確信だけはあった。

「応募なんて来るわけないか・・・」

苦笑いしながら広告掲載の申込書を見つめながら思った、日本には何千万人もの女性がいる。
その中に、たった一人くらい、お金じゃなく、自分という人間を見てくれる女性がいてもいいじゃないか。

そんな淡い期待を胸に、陽介は「彼女募集」の広告を搭載した。
この、あまりにも突飛で非常識な募集が、彼自身の運命を大きく動かす第一歩になるとは、この時はまだ夢にも思っていなかった。

つづく。
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