代理意趣返し。
「もしかして、転勤の話も、あんたの……」
「どうかな。俺はただ、君の仕事ぶりをありのまま上に報告しただけだよ」

 不意に緩んだ俺の口元を、千葉が凝視している。
 声も身体もガタガタに震えているわりに、そこには気づけてしまうのか、と思う。

 ならせっかくだ。
 餞別の意味も込めて、もうひとついいことを教えてやってもいい。

「ねぇ千葉、俺はね」
「……え?」
「知ってたんだ、最初から。浮気、しかも社内でってやつ、お前今回が初めてじゃねえだろ」

 無言ではあったが、千葉の顔が露骨に引きつる。
 本当に詰めが甘い男だと思う。妙に勘がいいわりに、自分自身の言動は隙だらけ。笑う気にもなれない。

「さっきも言ったけど、やるならもっと狡猾にやるべきだった。少なくとも俺の前でそんな隙は見せるべきじゃなかったんだよ」
「あ……あ、」
「じゃあね。俺はお前のこと、別に嫌いじゃなかったよ。こんなことにならなかったなら」

 その場に座り込んだ千葉は、やはりどう見ても被害者にしか見えなかった。
 それを目にしてもなんの感慨も湧かない俺は、とんでもない薄情者なのか。それとも、あまりにも長い間こいつの隣に佇む彼女を見すぎて、とっくに壊れているのだろうか。

 コツコツと周囲に鳴り響く自分の足音はどこか遠く、耳の奥が鈍く痛んだ。
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