君はアイリス
「フレイザーも〝ジーニアスの舞踊〟の件は知ってるみたいだな? 俺も昨日それを知って、隊長と『すごいっすねー』って話をしてたら、今日から当人がうちに来るって聞いてびっくり。なんでも、あれだけの活躍の直後に謹慎処分が出て意味がわからなくて、うちの隊長がお節介を焼いたんだってさ。ということで、エーファちゃんは今日から第八宇宙団の一員ってこと」
「いや、待て……どういうことだ」
リースにではなくエーファのほうに視線を向けて、フレイザーは問うた。
宇宙戦艦を護りきったパイロットに謹慎処分が下される理由もわからないが、隊長がお節介を焼いてまで彼女を異動させる理由もわからない。本人なら明確な答えを持っているだろうか。
フレイザーに問われたエーファは、感情も抑揚もたいして見られない、定規で引いたような一直線の声で答えた。
「私だけではありません。先日の第四ソーラーシステムにおける作戦、それ自体に過失疑いあり。ゆえに関係者一同を謹慎処分とする。そう決定された次第です」
「作戦自体に過失?」
「な、おかしいだろ? 外部から見る分には、あの作戦に何かしらの過失があったとは思えないんだよなあ。だって、相手はわりと普通の反抗惑星だろ? 銀河全体の平和と秩序に協力しない惑星の軍事力を制圧する……俺ら守護星軍の本領発揮じゃんか。百歩譲って過失があったとしても、関係者を謹慎処分にする必要なんてあるか? 責任者だけでよくね? 何のための上官だよ」
「お前、それを上官の前で言っていないだろうな。軍の裁定は絶対だ。それを簡単に疑う姿勢が昇格の妨げになっていると、自覚しているんだろうな」
フレイザーが咎めると、リースは両手を顔の横でひらひらさせて、気の抜けた笑みを浮かべた。
「俺はフレイザーと違って、昇格にはあまり興味ないんだよ。階級が上がって昇進して責任をとる立場になるよりも、俺は一生現場の人間でいたいね」
「それで、ベルツ少尉はうちで飛ぶのか」
「さすがにそれはできない、ってのが隊長の判断だ。うちに異動させたはいいけど、作戦に従事させるのはナシってことだな。まあ、謹慎処分にされている軍人を異動させること自体、かなりの荒業だしな。もう第八宇宙団の人間になったんだから、先の作戦の過失云々には関係ありません、って詭弁を通して謹慎にはさせないらしいけど。そこでフレイザーなんだよ」
「は?」
リースの飛躍した弁に、フレイザーは思わず間の抜けた声を出した。
「ほらお前、ちょっと忙しいタイミングじゃん? エーファちゃんをさ、お前の補佐ってことにして内勤させればよくね?」
「いいかどうか、それは俺が判断することではない」
「あー、言い直すわ。隊長がそういうことにしておけ、って言ってたからさ。はい、つまりこれは上官命令。今日からエーファちゃんは、フレイザーの補佐官です」
リースは軍人とは思えない軽いノリでそう言うと、エーファの肩をぽんとたたいた。
「エーファちゃん、フレイザーのこと、頼むね」
「おいっ、リース」
「じゃ、俺は今日の分の飛行訓練があるんで。ちょっと宇宙まで行ってくるわ」
睨みつけてくるフレイザーを華麗に無視して、リースは待機室を出ていく。残ったフレイザーは、必要なこと以外は何も話さないエーファをため息混じりに見下ろした。
(ずいぶんと小さいな)
フレイザーもリースも、身長は成人男性の平均より少し高いくらいである。一方のエーファの身長は、おそらく成人女性の平均にも満たないほどだろう。立ち位置が近いと、彼女のつむじが見下ろせそうだった。軍人らしいショートボブは頬と首筋に毛先がかかる長さで、ほとんど声を発さない唇は若い十代のそれらしく張りがある。
ニュース記事によれば、彼女は十八歳の若手だ。軍人になってからまだ日が浅い。だが、少尉という士官クラスで軍生活をスタートさせたということは、教育機関における成績は極めて優秀だったのだろう。
とはいえ、性格ゆえなのか勤務中だからなのか、不必要なおしゃべりは一切せず、表情も一貫して動かないところを見るに、なんとも人間味の欠けた少女である。
(こいつが本当に、あの戦果をあげたのか?)
メディアの書くニュース記事など、真実を何倍にも薄めたものか、ありもしない色で着色したもの。あるいは、真実を無茶な角度から切り取り、好き勝手に再構築したものだ。鵜呑みにするなど愚の骨頂である。
そう頭で理解はしていても、目の前の若くて小柄な女性軍人が、ユニバースダストの仲間がいたとはいえ、敵の攻撃から宇宙戦艦を護りきったファイターパイロットであることに間違いはない。
「お前のF6S4はどうした」
フレイザーは、まずは基本的なことを尋ねた。
「こちらの基地の格納庫に収容済みです。当面は作戦任務に従事できないので、待機モードです」
「整備員は? まさか、機付整備員も異動したのか」
守護星軍の地上戦闘機も宇宙戦闘機も、整備員は機体とセットである。常に同一の機体を整備しているからこそ、整備員は小さな違和感にも気付き、機体故障などの不慮の事故を防ぐことができる。毎日異なる機体を整備するというケースは、基本的にはあり得ない。
一方のパイロットだが、地上戦闘機と宇宙戦闘機では運用が異なる。
地上戦闘機の場合、機体とパイロットはセットにされず、作戦内容やパイロットのシフトなどによって、前回と異なる機体に乗ることが珍しくない。もちろん、異なる機体といっても同一シリーズの機体であるから、操作方法はどれも同じである。
「いや、待て……どういうことだ」
リースにではなくエーファのほうに視線を向けて、フレイザーは問うた。
宇宙戦艦を護りきったパイロットに謹慎処分が下される理由もわからないが、隊長がお節介を焼いてまで彼女を異動させる理由もわからない。本人なら明確な答えを持っているだろうか。
フレイザーに問われたエーファは、感情も抑揚もたいして見られない、定規で引いたような一直線の声で答えた。
「私だけではありません。先日の第四ソーラーシステムにおける作戦、それ自体に過失疑いあり。ゆえに関係者一同を謹慎処分とする。そう決定された次第です」
「作戦自体に過失?」
「な、おかしいだろ? 外部から見る分には、あの作戦に何かしらの過失があったとは思えないんだよなあ。だって、相手はわりと普通の反抗惑星だろ? 銀河全体の平和と秩序に協力しない惑星の軍事力を制圧する……俺ら守護星軍の本領発揮じゃんか。百歩譲って過失があったとしても、関係者を謹慎処分にする必要なんてあるか? 責任者だけでよくね? 何のための上官だよ」
「お前、それを上官の前で言っていないだろうな。軍の裁定は絶対だ。それを簡単に疑う姿勢が昇格の妨げになっていると、自覚しているんだろうな」
フレイザーが咎めると、リースは両手を顔の横でひらひらさせて、気の抜けた笑みを浮かべた。
「俺はフレイザーと違って、昇格にはあまり興味ないんだよ。階級が上がって昇進して責任をとる立場になるよりも、俺は一生現場の人間でいたいね」
「それで、ベルツ少尉はうちで飛ぶのか」
「さすがにそれはできない、ってのが隊長の判断だ。うちに異動させたはいいけど、作戦に従事させるのはナシってことだな。まあ、謹慎処分にされている軍人を異動させること自体、かなりの荒業だしな。もう第八宇宙団の人間になったんだから、先の作戦の過失云々には関係ありません、って詭弁を通して謹慎にはさせないらしいけど。そこでフレイザーなんだよ」
「は?」
リースの飛躍した弁に、フレイザーは思わず間の抜けた声を出した。
「ほらお前、ちょっと忙しいタイミングじゃん? エーファちゃんをさ、お前の補佐ってことにして内勤させればよくね?」
「いいかどうか、それは俺が判断することではない」
「あー、言い直すわ。隊長がそういうことにしておけ、って言ってたからさ。はい、つまりこれは上官命令。今日からエーファちゃんは、フレイザーの補佐官です」
リースは軍人とは思えない軽いノリでそう言うと、エーファの肩をぽんとたたいた。
「エーファちゃん、フレイザーのこと、頼むね」
「おいっ、リース」
「じゃ、俺は今日の分の飛行訓練があるんで。ちょっと宇宙まで行ってくるわ」
睨みつけてくるフレイザーを華麗に無視して、リースは待機室を出ていく。残ったフレイザーは、必要なこと以外は何も話さないエーファをため息混じりに見下ろした。
(ずいぶんと小さいな)
フレイザーもリースも、身長は成人男性の平均より少し高いくらいである。一方のエーファの身長は、おそらく成人女性の平均にも満たないほどだろう。立ち位置が近いと、彼女のつむじが見下ろせそうだった。軍人らしいショートボブは頬と首筋に毛先がかかる長さで、ほとんど声を発さない唇は若い十代のそれらしく張りがある。
ニュース記事によれば、彼女は十八歳の若手だ。軍人になってからまだ日が浅い。だが、少尉という士官クラスで軍生活をスタートさせたということは、教育機関における成績は極めて優秀だったのだろう。
とはいえ、性格ゆえなのか勤務中だからなのか、不必要なおしゃべりは一切せず、表情も一貫して動かないところを見るに、なんとも人間味の欠けた少女である。
(こいつが本当に、あの戦果をあげたのか?)
メディアの書くニュース記事など、真実を何倍にも薄めたものか、ありもしない色で着色したもの。あるいは、真実を無茶な角度から切り取り、好き勝手に再構築したものだ。鵜呑みにするなど愚の骨頂である。
そう頭で理解はしていても、目の前の若くて小柄な女性軍人が、ユニバースダストの仲間がいたとはいえ、敵の攻撃から宇宙戦艦を護りきったファイターパイロットであることに間違いはない。
「お前のF6S4はどうした」
フレイザーは、まずは基本的なことを尋ねた。
「こちらの基地の格納庫に収容済みです。当面は作戦任務に従事できないので、待機モードです」
「整備員は? まさか、機付整備員も異動したのか」
守護星軍の地上戦闘機も宇宙戦闘機も、整備員は機体とセットである。常に同一の機体を整備しているからこそ、整備員は小さな違和感にも気付き、機体故障などの不慮の事故を防ぐことができる。毎日異なる機体を整備するというケースは、基本的にはあり得ない。
一方のパイロットだが、地上戦闘機と宇宙戦闘機では運用が異なる。
地上戦闘機の場合、機体とパイロットはセットにされず、作戦内容やパイロットのシフトなどによって、前回と異なる機体に乗ることが珍しくない。もちろん、異なる機体といっても同一シリーズの機体であるから、操作方法はどれも同じである。