君の隣は、呼吸ができる


姉と姪っ子が帰ったら、家の中が急に静かになった。

ベッドに横になりながら、揺れるカーテンの先を眺める。
私の部屋からは、真樹の家が見える。
白い壁の、大きな家。
洋風の造りで、茶色い屋根と飾り窓が目を引く。

子どもの頃は気にならなかったけれど、こうして見ると、うちよりずっと大きい。

部屋は隣同士じゃないから、いくら見つめても真樹の姿は見えない。

「どこに住むんだろ……」
「……いつ、なんだろ……」

昨夜、何度もメッセージを書いては消した。


正直、実家を出るなんて想像もつかない。

仕事の日は、なるべく自分でお弁当を作っている。
それでも、新商品や限定品に弱いし、友だちとテーマパークに行くことが好き。
おまけに、自分に合うサイズの服を見つけると、つい買ってしまう。

実家暮らしのわりに、貯金はちっとも増えていない。

(みんな、どうやって一人で生きてるの?)

真樹はもう、その答えを知っているのだろうか。

今の私には、「自立」という言葉が遠いものに見えた。


寝返りを打つと、サイドテーブルの上の髪ゴムが目に留まった。
昨日、姉から貰った姪っ子とお揃いのリボン付きで、いかにも可愛らしいデザイン。

(……やっぱり私って、子どもっぽいのかな)

姉の前でも、会社でも。

そして、たぶん真樹の前でも。

真樹とは、生まれた時からずっと隣に住んでいて、小さい頃は毎日のように遊んでいた。
別の高校に通ってからは、あまり話さなくなった。

真樹が大学を卒業して社会人になったのは、去年のこと。
勤務地が近いから一緒に行くようになって、また話すようになった。

数年空いていたなんて思えないくらい、隣にいるのが自然だった。

そんな真樹が、大人の世界へ踏み出そうとしている。


髪ゴムをユラユラ揺らす。
緑色の小さなリボンが、芽生えたばかりの葉っぱに見える。

(私が頼りないから、教えてくれなかったの?)

相談する相手だと、思われていないのかもしれない。

枕を抱きしめながら小さくため息をつく。

あんなに当たり前だったはずなのに。 
急に遠く感じた。


月曜日、真樹とどんな話をしたらいいのか。

今の私には、分からなくなってしまった。
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