君の隣は、呼吸ができる
✴

姉と姪っ子が帰ったら、家の中が急に静かになった。

ベッドに横になりながら、揺れるカーテンの先を眺める。
私の部屋からは、真樹の家が見える。
白い壁の、大きな家。
洋風の造りで、茶色い屋根と飾り窓が目を引く。

子どもの頃は気にならなかったけれど、こうして見ると、うちよりずっと大きい。

部屋は隣同士じゃないから、いくら見つめても真樹の姿は見えない。

「どこに住むんだろ……」
「……いつ、なんだろ……」

昨夜、何度もメッセージを書いては消した。


正直、実家を出るなんて想像もつかない。

仕事の日は、なるべく自分でお弁当を作っている。
それでも、新商品や限定品に弱いし、友だちとテーマパークに行くことが好き。
おまけに、自分に合うサイズの服を見つけると、つい買ってしまう。

実家暮らしのわりに、貯金はちっとも増えていない。

(みんな、どうやって一人で生きてるの?)

真樹はもう、その答えを知っているのだろうか。

今の私には、「自立」という言葉が遠いものに見えた。


寝返りを打つと、サイドテーブルの上の髪ゴムが目に留まった。
昨日、姉から貰った姪っ子とお揃いのリボン付きで、いかにも可愛らしいデザイン。

(……やっぱり私って、子どもっぽいのかな)

姉の前でも、会社でも。

そして、たぶん真樹の前でも。

真樹とは、生まれた時からずっと隣に住んでいて、小さい頃は毎日のように遊んでいた。
別の高校に通ってからは、あまり話さなくなった。

真樹が大学を卒業して社会人になったのは、去年のこと。
勤務地が近いから一緒に行くようになって、また話すようになった。

数年空いていたなんて思えないくらい、隣にいるのが自然だった。

そんな真樹が、大人の世界へ踏み出そうとしている。


髪ゴムをユラユラ揺らす。
緑色の小さなリボンが、芽生えたばかりの葉っぱに見える。

(私が頼りないから、教えてくれなかったの?)

相談する相手だと、思われていないのかもしれない。

枕を抱きしめながら小さくため息をつく。

あんなに当たり前だったはずなのに。 
急に遠く感じた。


月曜日、真樹とどんな話をしたらいいのか。

今の私には、分からなくなってしまった。
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