君の隣は、呼吸ができる
――不安だった、月曜日。

すでに家の前で待っていた真樹から、いつも通りの挨拶をされた。
意外なことに、気まずくなかった。

お互いに、特別なことは言わないし、何も聞かない。

引っ越しのことも。あの夜の言葉も。

本当はすごく気になる。
今すぐにでも、真樹に聞きたい。

でも、変に触れないことで、どこか安心している自分がいた。


そして今朝も、私は通勤ラッシュの洗礼を受けていた。

今日は、ギュウギュウの車内で倒れかけてしまい、真樹に引き寄せられて抱き込まれる形になった。

戸惑いながら、真樹のシャツを小さく掴む。

「……っ」

少し屈んで支えてくれる真樹の鼓動が、すぐ近くで鳴っている。

(真樹の音、いつもより速い気がする……)

つられるみたいに私の心臓まで落ち着かない。

「……ごめん、暑いよな」

頭上から、申し訳なさそうな声が落ちてくる。

真樹が私の背中に触れて、どうしてもあの夜を思い出してしまう。

(あのゴツゴツが私の背中にぃぃ……)

彼の手から伝わる熱が、じわじわと頬に集まっていくようだ。

今の自分の顔を見られたくなくて。
胸元におでこを押し付けたまま、小さく首を振った。


この香りが安心すると言っていた私は、どこへ行ったのか。

呼吸はできているはずなのに、なんだかずっと苦しい。

(さ、酸素ぉ……!)

早く駅に着くよう、目を閉じてひたすら祈った。
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