君の隣は、呼吸ができる
✴✴✴

朝のメッセージの、友だちの写真が頭に浮かぶ。

彼女たちは、中学時代から仲良しだった。
でも、あの頃の二人は付き合ってはいなかった。

(友だちから恋人になる、かぁ……)

ふと、そんな考えが頭をよぎった。

「人間は、いつ男と女になるのか……」

どこまでも続く灰色のアスファルトを見つめながら、ぼそっと呟く。

「深いなー」
「……まあ、酒が入った時かなー」

突然、隣から妙に納得したような声がして、私はハッと顔を上げた。
会社の先輩が、口元に手を当てて何度も頷いている。

(ぎゃあああ! 私、何て言ってたの!?)

「な、何でもないです!」
「独り言なので、今の忘れてくださいね!!」

(先輩の言ってる意味も、ちょっとよく分からなかった!)

慌てて首を振ってから、ヘラヘラと笑ってみせた。

「まぁ、安心しろ」
「俺もたまに“俺はいつからおじさんになるのか”って考えるぞー」

「はあ……」

気の抜けた返事をすると、先輩が笑い出す。

「それよりも、さっきから茹でダコみたいな顔してるぞー」

「タ、タコぉ!?」

片手で頬を触ってみると、確かに熱い。

「こうなってたぞー、こう!」

そう言って先輩が唇を大げさに尖らせてみせる。

(げえっ、そんな顔してたの私!?)


今、外回りから戻った先輩の買い出しに付き合っている。

歩きながら、横の先輩をちらりと見る。

彼は、男性社員の中では小柄だと言われている。
確かに、見上げなくても目線が合わせやすい。

それでも、私よりはずっと歩幅が広い。
隣を歩くのに必死で、ついて行くだけで息が切れてしまう。

日差しを反射したアスファルトが、容赦なく熱を跳ね返してくる。
服が肌に張り付くのが気持ち悪くて、早く涼しい事務所に戻りたい。


大通りの交差点で信号待ちをしていると、先輩がスマホを手に取った。

「はい、お疲れさまです」

口調が途端に真面目になる。
仕事の電話らしい。

私は火照った頬を手で仰ぎながら、ぼんやりと靴屋のショーウィンドウを眺めた。

そこに飾られている、ヒールの高い靴が気になった。

(あれって何センチあるんだろう)

喧騒が、ふっと遠のく。
そんなことを考えていた時だった。

視界の端に、見覚えのある背の高い人が映る。

(真樹だ!)

弾かれたように、心臓が跳ねた。
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