君の隣は、呼吸ができる


「――そろそろ、帰るか」

「……うん」

気付けば、空はすっかり夜の色になっていた。
街灯の明かりが、公園の地面に柔らかな影を落としている。

私がベンチの横に置いていた靴を履くと、真樹が「ほら」と言って手を差し出した。

私も手を伸ばしかけて――止まった。

「……どうした?」

「えっと……そのぉ……」

指先をもじもじ絡める。

「もし、家の前で親に見られたらって……」

今度は別の恥ずかしさが込み上げてくる。
言いながら、自分の頬が熱くなるのが分かった。

手を繋いで歩いているところなんて見られたら、きっと母は大騒ぎする。
はしゃぎながら、姉に電話までしそうだ。

それに、真樹のご両親にも見られたら、恥ずかしいどころじゃない。


真樹は一瞬だけ目を丸くして、それから笑い出した。

「別にいいだろ」
「もう、幼馴染だけじゃない――だろ?」

そう言いながらも、彼の笑顔には少し照れが混ざっている。

真樹だって、ちゃんと恥ずかしいんだ。
そう思うと、自然に笑みがこぼれてしまう。

「そうだね!」

手を伸ばして真樹の指先に触れると、絡めるように握られる。
こういう繋ぎ方は初めてだから、胸の奥がくすぐったい。

小さく笑って、私はこっそり指に力を込めた。
そっと見上げると、真樹が嬉しそうな笑顔を向けていた。
< 59 / 63 >

この作品をシェア

pagetop