君の隣は、呼吸ができる
✴


今朝の電車も、相変わらず混んでいた。

いつもの通勤ラッシュの洗礼。
たくさんの人に押されて、つぶされそうになる。

車内が大きく揺れて、私の体がぐらりとバランスを崩す。

真樹の腕が伸びる前に、自分から彼の広い胸へと飛び込む。

「おっと……」

少し驚いたような声。
でも、すぐに柔らかい体温が私を包み込んだ。

好きな匂い。温かい腕。
よく知っている鼓動に安心する。

少し身を屈めた真樹が、私の頭をそっと撫でた。

「大丈夫?」

頭上から、やさしい声が落ちてくる。

「うん」

彼の腕の中で頷く。
そして、小さく呟いた。

「……すっごく幸せ……」

真樹が吹き出す。
その振動につられて、私も笑った。


彼の胸元へ、さらに頬を寄せる。

(私の酸素、確保……!)

真樹の腕がそっと背中に回るのを感じながら、安心できる人のぬくもりに身をゆだねた。


そして。
深く、深く呼吸をした。



本編 終
< 63 / 99 >

この作品をシェア

pagetop